恋カメラ

雨宮大智

第1章 冬のポートレイト

1-1 お正月の朝

 三津輝みつてる伯父さんからのお年玉の一万円で、僕の貯金は十万円に達した。この十万円で、僕は新しく何かをはじめたいと考えていた。十万円で何が買えるか……。パソコンだろうか。犬だろうか。ロードレーサータイプの自転車だろうか……。


 僕は宮島カナタ。高校一年生のお正月は、期待とともに明けた。幼い頃からお年玉を積み重ね、今年ようやく十万円ものお金が貯まったのだ。一月三日の今日、そのお年玉を持って街へ行き、何かを買おうと考えていた。僕の人生を新しく開いてくれる何かを。



 午後から、父の宮島学に車を出してもらって、街へ行くのだ。僕の住んでいる街は山河市という、人口三十万人の小都市だった。


「父さん、今日の午後から、初売りに車で連れて行ってくれないかな」

「いいけど、何を買うんだい」

 父の今日の予定は、午前中にご年始に行くことだけで、午後からは空いていた。


「何を買うか、決めかねているんだ。これまでもらった十万円で、何か新しいことをはじめようと思って……」

「例えば?」

「パソコンを買おうかと思っているんだよ」

「パソコンなら、お父さんのものを貸してあげるよ。他のものにしたらどうかな」


 僕は、いきなり第一候補のパソコンが消えてしまったので、さらに迷いはじめた。

「あとは……、『犬』とかは……」

「『犬』じゃ、人生は拓けないんじゃないかな」

「それもそうだね」僕は頷いた。「じゃあ、ロードレーサータイプの自転車はどうかな。学校へ行くときに乗ってみたいんだ」

 父はしばらく考えていた。

「悪くないけど、どんな感じの自転車?」

「待って。今、友達のロードレーサーを撮った写メがあるから」

 僕はそう言ってスマホを操作した。

「これだよ」

 父に四、五点の写真を見せた。

「コレ、うまく撮れてるなぁ。いい写真だよ」


 思わず僕は吹き出した。

「何? ロードレーサーじゃなくて、写真が?」

 父は意外に真面目な表情で頷いた。

「むしろ、カメラを買った方がいいんじゃないかな」

「カメラを?」


 意外な一言だった。

「でも、スマホがあるし……」僕は言い淀んだ。

「カメラはレンズの大きさが大事なんだよ。物理的に大きなレンズじゃないと光が上手く集まらないんだ」

「そうなんだ」



 僕はちょっと、カメラが気になってきた。

「幾らぐらいするの。デジタルカメラは?」

「デジカメは五千円位からあるけど、良いカメラ、デジタル一眼レフは、八万円以上するんだよ」

「結構するね」

「カメラ屋さんで実機を見てみるなら、乗せて行ってあげるよ」

 父は優しく僕の方を見た。


「じゃ、同級生に写真館の子が居るから、その子の店へ行こうか」

「ああ、山田写真館か。あそこでは、カメラも売っていたなぁ」


 僕らは午後から、山河市内へと車を走らせた。自宅から十分位のところに、山田写真館はあった。

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