第29話 遺跡攻略7・決着後の事後処理

 首のない死体がしゃべりだした。

 潰れた頭部ではなく、遺体の腹部から黒い液体が流れだして形をとるように蠢いている。

 とっさに戦闘態勢をとるが、出てきたモノは両手を挙げて降参のポーズをとっていた。


「あ~、待って待って。オレっち奇襲しかできないから戦闘力は皆無なのよ。

大人しく逮捕されるから殺さないで」

「アナタ何者ですか……」

「あ~、オレっちはスワンプ。

簡単に言うと死体をコピーして他人に成り代わる能力を持った魔獣?なのかな。

元々この辺に住んでいたんだけど……まぁ、迫害されて村を追われたのはそこの狼たちとは違って沼の近くで産まれて、ちょうどいい隠れ家だから勝手にここに住み着いて寝てたら、やれ盗賊団だのやれウルフだのが住み着いたからたまに成り代わって遊んでたんだ」

「それでサリオさんに成り代わっていたんですか?」

「あぁ、この近くでじっと観察をしていたからね……。

この住処を追われたらたまらないと思って、念のため排除してみたんだけど持ち物からスカウトって言うのかな。

偵察だったからもうここのことはバレてるだろうし、だからと言って消えたらきえたで不審だろうと思って成り代わってみた」


 あっけらかんと言ってのける彼?を警戒を緩めずににらみ合いながらその真意を探っていたが、神器で観察していたであろうセレーネ隊長が大きくため息をついてから刃を下した。


「取り敢えず、今の言葉に悪意や嘘と言ったものはなさそうです。まずは拘束して連れ帰りましょう」


 そういってセレーネ自身のポーチから初めて見るアーティファクトが出てきた。

 手のひらサイズのガラス瓶のようだがこれは何だ……。


「液状になれるのでこれで拘束させてもらいます」

「ご自由にどうぞ」


 瓶の口を開けると相当量の水が地面に解放され、次にスワンプの頭にくっつけると瓶の中にスワンプが吸い込まれていった。

 ふたを閉めると封印の完了とのことだ。


「神輿に入れる海水の運搬に使っているレリックです。

一メートル四方までの液体を圧縮して持ち歩けます。

内側から開けることは想定してないから多分大丈夫でしょう。

中に一トンもの水を入れても重さも感じないよう、魔法が刻まれていますので重くもありません」


 これで一応戦闘は終了と言うことになる。

 ポルフやスワンプなどの謎が増えてはいるが、それはサキセルでの尋問で明らかにしていけばいいことだ。


「疲れましたね」

「ここまで追い詰められたのは久々でした。実際、魔力球を使われても普段通り歌えていたら、先の戦いは戦い問題はなかったんですよ。

体力も魔術経路も自動回復されるので」

「あぁ、今回は隊長を真っ先に仕留められたのがまずかったな。

後方警戒をもう少し厚くした陣形も必要かもな」


 そんな軽口を言いながらウルフ遺跡の入り口に向かって歩いて行った。

 サリオというかスワンプが設置したトラップを解除しながら上に進み、入口から出たところでアイビー隊の隊員アルカと情報を交わして事後処理をお願いする。


「もう敵はいませんので、被害者の保護とご遺体やカードの回収を」

「わかりました。状況おつかれさまです」

「……あっ、そういえば行かなかったけど最下層には何があったんでしょう?」

「あ~、使い方の分からねぇ神器が置いてあったよ。

売ろうとも思ったが、買い手も使い方がわからんから値が付かなくてな。

説明書ごと布をかけてある」

「だったら、ボクの仕事かもですね。

アルカさん。すみませんが取りに行きましょう」

「でも、戦って帰ってきたばっかりじゃ……」


 セシュ隊長が近寄ってきてアルカを制した。


「彼は屋上のメンバーだ。お疲れだとは思うがあるかとグラスキーの二人で行ってきてくれ。

回収まで他の隊員は最下層に入らないように言づけてから行ってくれ」

「あ~、屋上の。わっかりました。連れて行きますね~」


 仕方なく疲れた体に鞭を打って最下層に逆戻りした。

 最下層は階段の先に三メートル四方の部屋が一つあり、そこにテントのような天幕がありその奥に乱雑に積まれた荷物の中に神器はあった。

 これまでの神器とは異なりかなり小さいもので、万年筆のような見た目であった。

 神器とその下に置いてある説明書を手に取り、取扱説明書を読んでみる。

 うっ、この書き方はオーバだな。


 なになに……。マルチ筆記者……。

 あ、これちょうど探してた魔術式の書き込み装置かもしれない。

 もしそうなら、機密扱いの逸品じゃないか、オーバの説明書は解読が面倒くさいので、これ以上読み込まずにストレージに放り込んでおく。

 さて、この神器は絶対にバレないように持ち帰らなければならない。


「これは僕たちが探していた神器かもしれません」

「これを探していたんですか?」

「えぇ、どこにあるんだろうなぁって話をしていましたが、ここまで近くにあるとは……」

「どういった神器なんです?」

「すみません。それは話せません。

ただ、現状ではラボでの機密に関わるので、きちんと調べるまでは口外無用でお願いします」


 それから、天幕の中にある物をすべてストレージに仕舞いこんで、素知らぬ顔で砦を出ていき、帰還用の馬車へと合流した。

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