第28話 遺跡攻略6・決着 決め手は新魔法エクスチェンジ

 またシステムちゃんの割り込みだった。

 時間を止めてくれるから本当に助かるな。

「何って、エクスプロージョンで爆発させようと……」

「いや、アナタ地下って分かってましゅか?

あの魔力量の物質をそのまま爆発させたら遺跡が崩壊して埋まりまちゅよ?

助け出されるまで瓦礫に埋もれて、数か月ここで死に続けまちゅよ?」

「そこまでは考えてませんでしたね……ポルフごと倒せそうなエクスプロージョンくらいだったもんで、それしか頭に浮かびませんでした」


 顔は見えないが頭を抱えているかのようなリアクションが流れ込んでくる。

「は~~~ちかたないでしゅね。

コマンドはあんまり教えないんでちゅが『エクスチェンジ』くらいは教えてもいいでちょう」

「『エクスチェンジ』ですか」

「あい、特定の物質を特定の物質に置き換える、錬金術コマンドでち。

全く関係ないものには変えられまちぇんが、石炭からダイヤを作ったりできるでち」

「便利すぎますねそれ」

「上位の物質に圧縮するなら相当魔力使いまちゅけどね。

魔力球を他の魔法に置き換えるくらいなら眼鏡にたまっている自然のマナで足りまちゅ。

例えば……『エクスチェンジ』『ファイア』みたいにコマンドの後に変更するものをつけてくだちゃい」

「それ何か制限とかあります?魔力を物質にはできないとか」

「通常の十~百倍くらい魔力込めればできまちゅよ」

 それはほぼできないって言ってるんだよなぁ

「じゃ、がんばってくだちゃい」


 時間が動き始めるまでにどの魔法にするか決めなければならない。

 狼が苦手なものは……。わからないけど、取り敢えず目潰しでも気を引ければいい。

「エクス……チェンジ!フラッシュ!」

 マルチ眼鏡の機能なのか、溶接用のマスクみたいにいきなりサングラスのような遮光モードに切り替わった。

 めっちゃ違和感あるなぁ……これだけ強烈な光が、音も熱もなく光っているなんて。

 他のメンツは目を閉じているが、ボクだけはこの眼鏡のおかげで自由に動ける。

 今のうちにポルフを無力化しないと。


「ヒイロ!」

「任せろ!」


 ヒイロはその場で回転し、尻尾でポルフをこちらに吹っ飛ばした。

 目が見えてはいないが、その位置関係から無理矢理当たると判断したのだろう。

 飛び出した俺はポルフを受け止め、左手を絡めとり後ろに回り首元に剣を添えた。


「大人しくしてください。貴方には聞きたいことがありますので抵抗しなければ生きたまま逮捕します」


 一応、セレーネ隊長を介助した時にチェインを拝借しているから、ヒイロに渡せば逮捕は可能だろう。


「ふ、殺せばいいだろう……やってみろよ」


 ポルフの覚悟は決まっているようだ。

 死なせなければ復活するまでの期間で取り調べができるから楽だと思ったんだけどな。


「仕方ないですね……」


 俺は剣をポルフの喉に押し当てた。

 あと剣を引っ張れば喉を掻き切って絶命させられる。

 逮捕するときは基本的に首とカードだけを収納し、それを刑務所などに保存するのだそうだ。

 そうすると復活の日にその首から本体が復活される。


 ぐっと力を入れたその時、倒れていたポルフの部下が大声で何かを訴えてきた。


「姐さんを殺すのは待ってくれ。

代わりに俺たち二人を殺していいだから姐さんだけは」

「あぁ、そうだ。姐さんはここで何が起こったかにもかかわってやしない。

その罪は俺たちだけで背負うから」


 なんだろうか、前の世界ではこの命乞いに意味はあったはずだ。

 しかしここは、異世界復活のある世界なんだから、命乞いに意味なんてないはずだ。

 あまりの違和感に首を切る手を止めて、ポルフに尋ねてみる。


「ポルフ、一ついいか。あの部下の動揺は何だ?

復活の日まで会えなくなるだけで、何故あそこまで動揺をしているんだ?」

「さぁな、それよりオレはお前の甘さの方が気になるぜ」


 ポルフの頭突きがボクの鼻に入る。

 手が滑って剣が首から離れ、ポルフの左目を切りつけていたが、それに気づく余裕など今はない。

 手を離した俺の代わりにヒイロが関節を決めて、正しい逮捕術を披露してくれた。


「おい、相手からの反撃を食らわないようにこうやって組み伏せろって言ったよな」

「すみません。ちょっと気になることがあったので、殺すのちょっと待ってもらえますか?」


 先ほどの動揺していた部下の方に歩いていくと、しゃがみこんで二人の顔がよく見える位置で話をすることにした。


「あ~、すまないさっきの話なんだが。なんでポルフを殺してほしくないんだ?

まさか復活できない・・・・・・わけではあるまいし……」


 二人の顔が少し淀んで見えた。

 どうやら当たりだな。


「もういいじゃないか。隠してても全員死ぬだけだぞ。

君たち三人とも復活できない・・・・・・んだろ。

時間切れになる前にキチンと話してくれ」

「あぁ、そうだ」

「兄ちゃん……」

「もうバレたんだから隠す必要もないだろう?

そうだ、俺たち三人は『カード』を与えられなかった民だ。

だから、復活の日に復活もできないし、街に入れないからポーションも買えなくて、村人から奪う以外で自然回復以外で治療もできない。

そして『カード』を持たない俺たちみたいな人間は、魔獣として処理される」

「魔獣として……」


 兄弟の兄の方が重い口を開いてくれたようやく自体が判明し始める。

 もう観念したのかすらすらと身の上を話してくれたのだが、割とつらそうなのでそれ以上深く聞くのは取り調べまで待つことにした。

 涙ぐみながらもう一人の男が口を開く。


「俺たちは子供の頃に復活の日に怪我が治らなかったことで、魔獣であることがバレてしまった。それからは逃亡生活さ」

「町の出入り口すらカードがないと通れないから、柵を飛び越して二人で生き残ってきた」

「そんな時に同じ境遇の姐御と出会って、それからは三人で盗賊暮らしさ」


 もう不憫すぎて何も言えないな……。カードがないだけでそこまで差別があるのか。

 ここまで意思疎通できて人形にもなれる彼らが、人間ではなく魔獣扱いなんて何かのバグなんじゃないか?


「だが基本的には盗賊団を襲ってそこを根城にした。だから、村や町から直接奪ったことはない」

「そうか……」

「そのあたりは真実か確かめるアーティファクトがありますので、とりあえず騎士団まで護送しましょう」


 ようやく回復したアイゼンバーグ隊長に促され、拘束したポルフ達を連れて、俺たちは上層階を目指そうと準備をしていた。

 しかし気になったので念のため聞いてみる。


「そういえばサリオが裏切ったのは、何だったんでしょうね。

ボクはあまりかかわったことがない人ですが、セレーネ隊長が裏切るような人を隊員にしているとは思えません」

「その点に関しては、分からないですね。ここの遺跡を見張る業務についてから今日までも不審な動きはありませんでしたし」


 そういった話をしつつ、サリオの死体をアイテムポーチに入れようとしたその時。


「あ、ちょっと待って。いま出るから」


 首のない死体がしゃべりだした。

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