第7話:冒険者ギルドと従魔登録

バイコーンの仔馬は俺の言葉を聞いた後、少し考え始めた。

やはり人族の言葉をある程度理解しているようだ。かなり賢い。群れの方をチラチラ見た後、決心がついたようで、こちらに近づいてきた。


 「俺についてくるということでいいのか?」


 「ブルル」


 「よし、じゃあ今から俺たちは仲間だ。従魔魔法をかけるぞ」


 この世界の無属性魔法には、従魔魔法というものが存在する。そのため、冒険者たちの中には従魔を連れて活動する者も珍しくはない。 もちろん俺も習得している。


 すぐにバイコーンの頭にやさしく手を乗せ、従魔魔法をかける。

するとバイコーンと自分の間に何か魔力的なパスが繋がったことがわかる。


 「よし、今からお前の名前は『エクス』だ。よろしくな」


 「ブルルル!」


 従魔魔法のおかげで、エクスの考えていることがなんとなく理解できる。今は悲しさ半分、安心半分といったところ。

 実はもっと警戒されていると思ったのだが、エクスは非常に賢いので俺についてくることが最適解だということは初めからわかってたようだ。




 「お~い親父!」


 「どうしたんだ?アルよ」


 「報告に合ったバイコーンの仔馬拾ってきたから」


 「なっ、それは本当か?いやしかしだな...」


 「今回の討伐戦、俺がいなかったらヤバかったよね?ね?」


俺は凄んだ顔で近寄る


 「ま、まぁ...」


 「ね?」


 「しょうがない、認めよう。冒険者ギルドに従魔登録しておくんだぞ」


 「おう、ついでに俺の登録も済ませてくるわ」



 その日、屋敷に連れて帰ってきたエクスは家族や使用人に特に恐れられることもなく、どちらかというと可愛がられてきた。

 エクスはいくら子供とはいえBランクなのだが、そんなことはお構いなしに撫で繰り回されていた。おもに妹のレイによって。


「この子かわい~♡」


 アインズベルク侯爵邸はとても広いので、厩舎もたくさんあり厩務員も何人も働いている。一応そこに連れていったものの、エクスは暴れるくらい嫌がったのだ。

 

 昨日は皆に報告した後に、エクスは風呂で洗われた後に料理長の作った飯をたらふく食べた。

そして妹に連行され、妹の部屋で寝たらしい。


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 次の日の朝、朝食を済ませた後


 「ケイル。エクスはどこにいる?」


 「庭で日向ぼっこしております」


 「そうか。なんというか、自由な奴だな」


と呆れ顔をしていると


 「従魔は主人に似ると言われておりますので」


 「やかましいわ」



その後料理長にエクスの飯を作らせて、持っていき食べさせた後



 「親父おはよ~」


 「おう、早いなアルは」


 「冒険者ギルドにいって、俺とエクスの登録済ませてくるわ」


 「なるほど、ではこの封書を持っていきなさい。手続きがスムーズに進むはずだ」


 「わかった。ありがと」


 「そういえば、バルクッドでアルの噂が広がっているみたいだぞ」


 「それって、昨日の?」


 「そうだ」


 「うへぇ」


などと会話しながら、ケイルとエクスを連れて冒険者ギルドに進む。ちなみに、冒険者ギルドの建物と侯爵邸は近いので、歩いて向かう。


すると


 「おい、あれが噂の...」


 「でもSランクモンスターって、都市災害級だろ?本当なのか?」


 「無礼だぞお前っ!」


 「あれが『閃光』様なのね!!」


 「後ろの仔馬もなんか可愛いわね」



と噂されながら歩いていると、早速ギルドに着いた。エクスをギルドの厩舎に入れる。エクスは嫌がっているが、こればかりは我慢してもらわないといけない。


 「以前から大きい建物だなとは思っていたが、実際に訪れるとさらに大きいな」


 「ここはアインズベルク侯爵領最大のギルドですからな」


 「誇らしいな」



 そしてギルドに入る。圧巻の一言だ。冒険者は人口300万人を抱えるバルクッドでも割と人気の職業なので、建物の中にはたくさんの人々がいる。

 併設された酒場で朝食を取っているものいれば、クエストボードの前で議論を繰り広げる屈強な冒険者たちもいる。ちなみに、男女比はちょうど半々くらい。


 それらを横目に見ながら初心者担当の受付に並ぶ。


 「やはり朝は混んでいるな」


 「そうですな。朝は依頼の取り合いで賑やかですので」


実は、ギルドに入った途端ベテランの冒険者に絡まれるテンプレを期待していたのだが、この都市で俺はかなり有名人なので、特に絡まれたりはしなかったのだ。

 実際、冒険者という仕事を舐めている若者は結構いるので、そいつらを矯正するために行われていたりする。(中には単に嫌がらせがしたくて絡むものもいるが、目を見れば大体わかる)


 「お待たせ致しました。今回はどのようなご用件でしょうか」


 「俺の冒険者登録と、従魔登録を済ませに来た」


 「わかりました。ではこの紙に名前と個人情報を、もう一枚の紙に従魔の情報を書いていただけますか」


 「あ、その前にこれを頼む」


すっかり親父の書簡を忘れていたので渡すと、受付の女性はそれを確認し焦った様子で


 「しょ、少々お待ちください!」


といって奥に下がってしまった。


しばらくすると見るからにVIP対応の部屋に通され、そこには美しいエルフの女性がいた。


 「初めまして。バルクッド支部のギルド長を務めさせていただいている、メリルと申します」


 「アインズベルク侯爵家次男、アルテ・フォン・アインズベルクだ。こっちは執事のケイル」


ケイルが頭を下げる。


 「あと、タメ口でいいぞ」


 「あら、そう。じゃあお言葉に甘えさせてもらうわ」


 「それで、用件は?」


 「まずは昨日の件のお礼ね。昨日はありがとう。アルテ君がいなかったら、この都市がどうなっていたか...」


 「いや、それには及ばん。俺にはこの領すべてを守る義務があるからな」


 「さすがは『閃光』様ね。次はバイコーンの件についてよ。昨日討伐隊に参加した冒険者から大体話を聞いてるわ。今日は従魔登録をしに来たんでしょう?」


 「おう。それと俺の冒険者登録もな」


 「そうなのね。アルテ君の情報は、すでにこのギルドにあるから此方ですべて済ませとくから安心して頂戴」

 

 「そうか、感謝する」


 「じゃあこれを受け取ってくれる?」


とメリルからCランクの冒険者タグを渡された


 「Gランクからじゃなくていいのか?」


 「ええ。Sランクをソロで討伐できる冒険者を低ランクで燻ぶらせておく余裕はないの。ギルドはCランク以上の冒険者に強制依頼ができるから、こちらとしても助かるの」


 「なるほどな、ギルド長は凄い権限を持ってるんだな」


 「まぁ、その支部がある都市の領主の推薦か、Sランク冒険者の推薦のどちらかが必要なのだけどね。『鬼神』の推薦より信用できるものなんて中々ないわよ」

 

 「こちらとしてもありがたい」


 「最後にもう一つ伝えておくことがあるわ」


 「なんだ?」


 「このアインズベルク領には、いくつかのダンジョンがあるのは知ってるわよね?」


 「ああ」


 「最近、そのうちの一つであるAランクダンジョン『帝蟲の巣』のモンスターが増えているらしいの。数年以内に氾濫するかもしれないから、気を付けて頂戴ね」


 「相分かった」


 「やはり覚醒者は一味違うわね」


その後、晴れてCランク冒険者になった俺は、エクスとケイルを連れて侯爵邸に戻ったのだった。




 「ダンジョンか。まぁAランクダンジョンなら大丈夫だとは思うが、問題は魔力だな」


そう、覚醒者である俺は元から膨大な魔力量を誇るのだが、それでも無限ではない。


 「日光があれば余裕なんだがな。いや、まてよ...もしかしたらこの方法なら」


≪光≫の性質を振り返る。他と比べて特質すべき点は、速いことと質量が存在しないこと。それと、反射と屈折だ。光はそれを遮るものがない限り、宇宙空間でも進み続ける。

 そこで前世で行われていた光の無限反射実験を思い出した。


 「あれ?俺の魔臓の中で光を無限反射させれば、実質、魔力無限では?」


 この世界の生き物は心臓の横に魔臓という魔力を生み出したり、周りから吸収するための

臓器がある。魔物はこの臓器の中に魔石がある。ちなみに人族には魔石はない。


そんなに甘くはないかと思いながら、庭に出る。そして日向ぼっこしながら昼寝している駄馬の隣で実験してみた。そうしたら


 「なんか普通にできた。光の性質が関係してるのは当たり前だが、これは覚醒者だからできたのか?」


 覚醒者になってから、魔臓の中の感覚が少し変わったから、これが関係しているのかもしれない。よくわからんが、とにかくうれしい。


 「エクスよ、よろこべ!俺は歩く無限電池になったぞ!」


 「ZZZ」


隣でめっちゃ寝てる駄馬の、飯で膨らんだお腹をツンツンしながら喜びに更けるのであった。





それからまた二年、剣術と魔法の鍛錬をしながらたまにエクスを連れてギルドで依頼を受ける日々が続き、俺は十四歳になった。


この二年で俺はAランク冒険者となり、剣術や魔力操作、そして体格が急成長し、立派な男になった。冒険者の依頼は頻繁に受けている上に、すべて遂行しているので史上最年少でAランクとなった。

 そして兄は帝都にある「カナン帝立魔法騎士学園」の二年生になった。また妹は選定の儀を受け、全属性の適性を授かり、帝国では一時期話題になった。


 また、侯爵邸の庭にエクス専用の大きな厩舎が作られ、エクス自体も立派な大人の馬になった。さすがはBランクといえるほどの体格と覇気を纏っており、バイコーンは雷属性なので、体内に満ちている雷の魔力が、周りの空気をピリ付かせていた。依頼で討伐した魔物の魔石は全部エクスに与えていたので、進化が近いのかもしれない。


「エクス、お前もデカくなったな。なぁレイ。」


「大きくなっても可愛いですわね!」


「ブルル」


 現在、兄はカナンの帝都にある学園にいるので、あちらにある別邸に住んでいる。

我が妹であるレイも十二歳になり、立派な貴族令嬢になったのである。それと、両親は相変わらずの親バカを発揮しており、我が子の成長を喜んでいた。









 「さて、今日もひと暴れするか」


 

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