第8話:ワイバーン亜種狩りと【星斬り】

来年、学園に入学するための勉強はすべて済ませているので、今日も今日とて朝から冒険者ギルドへ向かう。この二年でエクスも相当この都市に馴染んできた。仔馬の時からバルクッドを連れまわしていたので、大人になった今でも怖がられることはない。(住民以外は初見でビビり散らかすが)


 ちなみに今の装備は、Bランクの地竜の素材で作ったものだ。エクスもこの馬鎧を着用している。それと俺の武器は主に長剣だ。この前の商業ギルドで開催されたオークションで珍しく「オリハルコン」と呼ばれる、あのミスリルを超える鉱石が出品されたので自分で稼いだ金で落札した。二キログラムでおよそ白金貨二百枚だ。

 こちらの世界の貨幣は銅貨(十円)、鉄貨(百円)、銀貨(千円)、金貨(一万円)、赤金貨(十万円)、白金貨(百万円)となるので、オリハルコンは前世でいう二億円くらいだ。


 オリハルコンはミスリルより硬い上に軽く、さらに他人の魔力に合わせて変質していくという性質があるので、知り合いのドワーフのおっちゃんに打ってもらったこの剣は、体の一部と間違えるほどに、とても手に馴染む。


「よし、ギルドに着いたから厩舎で待っていてくれ」


「ブルル」


従魔魔法のおかげで、エクスの気持ちがよくわかるのだが、今になっても厩舎は嫌いらしい。侯爵邸の厩舎も、寝るときに渋々入るが、それ以外では庭でゴロゴロしている。



ギルドに入ると、そこには珍しくSランクパーティ「獅子王の爪」のリーダーであるアレックスがいた。


「おぉ、『閃光』じゃねえか。久しぶりだな」


「アレックスじゃん、久しぶり。あれ?他のみんなは?」


「今日は休みなんだ。それで飯作るのめんどいから酒場で食ってた」


「あぁ、そうなんだ」


「さっきチラッと高ランク向けのクエストボードを見たが、中々面白そうな依頼があったから誰かにとられる前に受注したほうが良いぞ」


「そういうことは早くいってよ」


実はこの世界でできた友達一号が、このアレックス君なのだ。獅子王の爪の他の三人も友達なので、実質友達は四人もいることになる。この二年でアルテも成長したのである。


「そういえば、そろそろ俺もお茶会に参加しないと学園ではボッチスタートになっちゃうな」


 貴族の次期当主にとってお茶会の参加は義務なのだが、それ以外の貴族の子女もなんだかんだでお茶会やパーティに参加する。そのため比較的領地の近い貴族の知り合いが十~二十人はいるものなのだが、アルテは今まですべてサボってきた。


 この年になってそのツケが回ってきたのである。


「断じて悔しいわけではないが、今度暇なときに参加してみるか」


などと呟きながら例の依頼を受注する。


「大渓谷で通行人を頻繁に襲うワイバーン亜種の討伐ねえ...」


「ワイバーンの亜種は、強力な毒を飛ばしてくるので、気を付けてくださいね」


「ああ」


 亜種は変異種と違って普通の個体とあまり変わらない。違うのは色と、使う魔法が少し強力になるくらいだろう。ワイバーンは〈風〉魔法と毒を使って戦うが、ワイバーン亜種は〈風〉魔法の威力が上がり、さらに猛毒を飛ばしてくる。

 

 ワイバーンはBランクの魔物なので、亜種となるとAランク相当になる。


 なぜアレックスが勧めてきたのかというと、ワイバーンの素材は捨てるとこ無しなのである。皮や骨、爪や牙は武器や防具にできるし、肉は美味いし毒袋も錬金術の素材になる。もちろん魔石も高く売れる。


「よしエクス、ワイバーンでも狩って新しい装備でも作るか。あと肉と魔石もあげるからな」


「ブルル!」


 装備や魔石のことをチラつかせたら、すぐにやる気を出した。まったくチョロい馬である。



 バルクッドの門を出て、休憩を挟みつつ三時間ほどエクスを走らせる。エクスは〈風〉魔法は使えないが、〈雷〉魔法が使える。そのため足に雷を纏わせて本気で走れば、前世のスーパーカーくらい速いのである。本気を出して走ったら、空気抵抗で俺は吹っ飛ぶので、普通のスピードで走ってもらう。といっても馬よりも早いブラックホースの、さらに倍くらいには速いのだが。


 「見えてきたな」


俺は光学レンズを応用した魔法で、かなり遠くを視認する。


 天龍山脈の頂上付近にはSSランクである本物の「龍」が住んでいるので、高く登るほど危険度が増す。というか一番下にある大渓谷ですらこの危険度なので、想像は難しくない。

 ちなみに、龍は長寿であり、魔物の中でもトップクラスに賢いので、エクスと同じく人族の言葉を理解しているらしい。


「ついたが見当たらないな」


 ≪光≫魔法で探知し、半径二キロメートル以内を探す。俺もこの二年で成長し、探知範囲がグッと広がったのだ。


「見つけた」


ワイバーンにしては若干魔力が薄い気がするので、光の当たりにくい洞窟を巣にしているのかもしれない。


「あっちだエクス。やつが洞窟から飛び立つ前に殺りにいくぞ」


「ブルル!!!」



エクスの頭の中はすでに魔石と肉のことで一杯だった。現金な奴。



すぐに洞窟が見えてきた。すると、洞窟の周りには馬車の残骸が散らばっていた。ワイバーンがもし宝を貯めていたら、その所有権は討伐したものに譲られるので、俺のものになる。それに気づいた俺は、今までにないくらいやる気を出すのであった。そう、主と従魔は似るのである。



エクスから降りて洞窟の入り口に向かうとワイバーン亜種がそれに気づいて、奥から出てこようとした。


「たまには身体強化だけで戦うか」


 普段なら光速思考を起動し、光で目つぶしをする。次に二年前に戦ったヴァンパイアベアから学んだ光の魔力を混ぜた身体強化を駆使して、爆発的な速さで接近し首を切り落とすだけなのだが、たまには縛りを設けてもいいだろう。

 まあ身体強化を使った時点で≪光≫魔法は使っているのだが。



 まずはワイバーンが口から猛毒を吐き、≪風≫魔法でそれを飛ばしてくる。


「ガァァァ!!!」


 俺は今光速思考をしていないので、世界がスローになっていないのだが、そもそも動体視力がずば抜けているのでこの程度なら問題はない。


 空中を埋め尽くす猛毒の液体の隙間を縫って進み、そのまま減速せずにワイバーンに突っ込む。そうすると、ワイバーンはまさか避けるとは思っていなかったようで、焦って右腕を振り、鋭い爪で俺を切り裂こうとする。


 カキンッッッ。という甲高い音を洞窟内に響かせながら、俺は光の魔力を纏ったオリハルコンの剣で受け流す。

 そして何回か左右から同じ攻撃をしてきたので、冷静に受け流す。


 そうすると、ワイバーンは焦ってきたようで猛攻の中で「風の槍」をいくつか生成して飛ばしてきた。四本あるうちの二本は避け、もう一本はオリハルコンの剣で受け流し、残りの一本は多めの魔力を纏った右手でぶん殴って消滅させようとした。


 しかしその時、剣に違和感を感じた。


『もっとありったけの光の魔力を込めろ』


とこの剣が叫んでいる気がした。

そこで俺は今まで魔臓で貯めてきた、すべての膨大な魔力をこいつに込めた。


 もし失敗したら魔力切れになり敗北する可能性があるのだが、俺はこいつを信じることにした。

 そしてその覚悟に呼応するようにこの剣は、真ん中に一本不思議な輝きを放つ線を伸ばし、前世でいう刀の形に変形した。そう、この形だ。この形なのだ。ドワーフのおっさんに刀について聞いたら、そんなものは知らないし存在しないと言われたので諦めていた。


 しかし、こいつは俺のために理想の形になってくれた。


アドレナリンがドバドバ吹き出し、光速思考を起動していないのに世界は俺のものになった。


まず風の槍を剣で斬る。


次に光の速さでワイバーンの懐に移動し


刹那、この空間、いやこの星を切ったと錯覚するほどに美しく鋭い一閃を放ってワイバーンの首を落とした。




この戦いの中で俺に新たな相棒が生まれた。その名は.........





  【星斬り】






ワイバーン亜種の討伐後、すぐに袋型のアイテムボックスに死体と貯めてあった宝を詰めて、洞窟を出た。


「エクス、新しい仲間ができたぞ」


といい、俺は鞘に収まらなくなった星斬りを見せた。

星斬りは真ん中に不思議な光を放つ線が通っている、シンプルで美しいデザインだ。


変形したのは俺が覚醒者だからなのか、ほぼ無限の魔力を持っているからなのか、それとも星斬りが元々特別なオリハルコンだからなのか。


「よし、依頼も達成したし帰ってからドワーフのおっちゃんに新しい装備と星斬りの鞘でも作ってもらうか」


「ブルル...」


「すぐに料理長に肉を調理してもらって、たらふく食べような」


「!!!」



その後、食いしん坊馬は信じられないスピードで走り、その日の夕方前にはバルクッドの巨大な門を潜った。


この一件で俺はSランクになり、史上最速でSランクに昇格した覚醒者として、カナン大帝国どころか大陸全土にその名を轟かせた。






かの冒険者は【閃光】と呼ばれ、迅雷を纏う黒馬に跨る。さらにその魔法は全てを滅し、その剣は星を斬る。






冒険者ギルドは国家とは独立しており、この大陸中に三つの本部とたくさんの支部が存在するので俺が史上最速でSランクになったという情報は、文字通り大陸中を駆け巡ったのである。


 そして気づけば、大陸中で話題沸騰中の青年になったのである。



「さすがはアルだな!しかし、もうすぐ学園に入学するために帝都に行ってしまうのは寂しいな」


「そうねぇ、アルがいなくなったら日ごろ騒がしい我が家も静かになっちゃうわね」


「私もついていく!!!!」


「それはダメだろう」


「ところでアルよ。その話はいったん置いといて、お茶会はどうするのだ?」


「そうよ。この馬鹿夫は他貴族にあなた達のことを自慢しまくっているのよ。だからその当人がお茶会やパーティを開かないのは少し....ね?」


「お兄様ボッチ...?」


「うっ」


ついに妹にも憐みの視線を向けられてしまった俺は、甚大な精神的ダメージを負うのであった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る