貸しイチ

湊は、クラスの中心メンバーだ。

まわりからは、明るくて、頭が良くて、顔が良くて落ち着きがあると認識されている。

実は彼女もいて、リア充真っ只中…、に見える。


今日は、文化祭の教室展示の内容を学級会で決める事になっている。

湊は文化祭委員なので、議長として、前に立って話していた。

「何か展示したいものある人〜?」

湊が自分の手を挙げて、他の人に挙げるように促す。

湊は、クラスの意見を聞いたり、自分の意見を出したり、誰かのボケに突っ込んだり…とにかく器用にこなす。


「ね、看板の絵を描く人、決めたいんだけど。誰かやってもいいって言う人いない?」

湊は、えりを見た。

えりは目をそらした。

「湊やれよー」

湊の友達がふざけて言う。

「ま、いいけど。1人はやだよ。あと1人くらいやってよ」

「土屋とやればー?」

さっきとは違う湊の友達がからかう。

「クラス違うだろーが」

湊が突っ込む。

土屋アンナは湊の彼女だ。

美男美カップルとして有名なので、皆ニヤニヤしている。

えりもしていた。

そこを湊に見つかった。

「谷川は?」

急に湊が指名した。

「私?!」

「絵、うまいじゃん」

湊はニッコリ笑った。

周りのからの視線が集まる。

「じゃ、うん…」

「じゃ、俺と谷川が看板ね。じゃ、次は…」


周りのクラスメートは、" 大人しいえりにも声をかける優しい湊 "だと思っていた。

えりだけ、

(相変わらず腹黒…)

違う感想だった。

「じゃ6時間目は、係ごとに別れて作業してください」

クラスの皆は返事をした。


「いじわる…」

「お前が、ニヤニヤ笑うから」

湊とえりは他の人に会話が聞こえないように、教室の隅で看板を作っている。

「私、愛花と一緒が良かった…」

「んだよ。たまに他の人と触れ合いなよ。あ、コレ、下書きして…」

「えー、私ばっかりしてない?」

「えりの方が、絵うまいじゃん」

「うまいけども…」

「ハハッ。じゃ、やって」

「もうっ」


「湊〜、画用紙足りないんだけど…」

男子2人が話しかけてきた。

「おぉ、じゃ、俺もらってくるからさ、他の進めてて」

「わかった。ありがと。…あれ?看板の絵、上手くない?谷川さん描いたの?」

「え?うん」

「うまーい」

「な?推薦してよかったろ?」

湊は男子2人に言う。

「うん。後でこっちにも谷川さんレンタルしてよ、マジで」

「物じゃねーんだから」

「湊に聞いてないもん」

「フフッ。後で手伝うよ」

えりが言った。

「ホント?サンキュー」

「…何なら今行きたいくらい」

えりは、湊がぎりぎり聞こえるくらいの声で言った。

湊は反射的にえりの頭を軽くペシッと叩いた。

(やべっ!)

湊が女子の頭を叩くのを初めて見た男子2人は、一瞬黙った。

「ごめん!つい…」

湊は焦った。

「アハハッ。大丈夫。痛くないし」

えりは大きな声で笑った。

「びびったぁ〜。湊叩いてツッコミするの初めて見たよ〜」

男子2人はホッとした。

「あ、画用紙取ってきたら?看板進めとくよ」

「あ、うん。ありがとう」(焦ったぁ…)


無事、画用紙を渡し、戻ってきた湊に

「貸しイチ」

えりは笑って言った。

「俺もだけど、えりも相当腹黒だぞ…」

「…。そうなの?」

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