名前で呼んでよ

湊は他の人に、自分が毎日小さい妹の世話で忙しいのを知られたくない。

世話が嫌なわけではない。

春乃は、すごく懐いてくれて可愛いし、家事も好きだ。

でも、周りから、同情なんてされたら、面倒くさすぎると思っていた。



湊は、学校で、えりと話す事はほとんどないが、あれっきり仲が悪くなったわけでは無い。

学校では話さないが、たまに、弾丸で春乃を連れて、えりの家に遊びに行っている。

最初は、何でも受け入れてくれたが、段々、都合が悪い時は悪いと言ってくれるようになったので、誘いやすくなった。



ピンポーン。

谷川家のチャイムがなる。

「あ、春乃かな?」

孝司が、インターフォンに確認に行く。

「えりー!やっぱり春乃と湊君だったー!」

孝司は部屋にいるえりに知らせる。

返事がないので、部屋を見てみると、寝ていた。

「もう!えり!」

えりは、一度寝てしまうとなかなか起きない。

孝司はしょうがなく玄関に行った。

ガチャ。

「こんにちは。…谷川は?」

「えりは寝てる…。だからまた今度…」

「そうなの…?」

「うん…」

孝司も春乃もショボンとしていた。

「じゃあさ、家の前で少し遊ぼ。俺、ちゃんと危なくないか見てるから」

「いいの?」

「うん」

「ありがとう、湊君!」

「鬼ごっこ?縄跳び?チョークもあるよ!」


えりは、目を覚ますと、ほんの少し日が暗くなっていた。

「んー…」

えりは伸びをする。

「今日、料理当番だ…。何作ろ…」

リビングに行ったが、孝司がいない。

家の中にいないので、家の前の公園でも行ってるのかと思って、外に出た。

孝司と春乃と湊が、玄関先で遊んでいた。

「あ、谷川。おはよ」

「あー、えりやっと起きた!」

孝司は少し怒ったように言う。

「ごめんごめん。小林君、一緒に遊んでくれてたんだ」

「うん。勝手にごめんね」

「ううん。ありがとう」

「えりー、まだここで遊んでいい?」

「うん、いいよ」


湊とえりは、遊んでる二人を見ながら、話した。

「小林君の家の今日の夜ご飯は?」

「しらね」

「そっか、私、今日食事当番で」

「そんなんあるんだ」

「うん。何作ろ…」

「焼きそばだな」

「フッ。何で?」

「今、食べたいから」

「…そう言われると食べたくなってきた…」


「お兄ちゃーん、転んだ…」

春乃が湊のところに、泣きながらやってきた。

「私、絆創膏もってくる!」

「ごめん、ありがとう」


えりが走って戻ってきた。

「小林君これ…」

絆創膏を差し出した。

「ありがとう。ほら、春乃足出して…」

春乃の足に絆創膏を貼る。

「大丈夫か?」

「うんっ」

「よし、じゃ、谷川にお礼いいな?」

「ありがとう…」

春乃は恥ずかしそうに言った。

「いいえ」

えりはにっこり笑った。


「ねー」

孝司が湊とえりに話しかけた。

「谷川とさ、小林とかじゃなくてさ。名前で呼んでよ。わかんなくなる」

「そうだねー!そうしてー」

春乃が同意した。

「春乃が言うなら…」

湊は春乃に弱い。

「じゃ、下の名前で呼ぶ」

「そうだね…」

湊は、なんだか、照れくさそうなえりを見て、ふざけたくなった。

「えり」

「何?」

「えりも湊って呼んでよ」

えりは湊のニヤニヤした顔を睨んだ。

「…」

「えりー?」

「よしっ、じゃこのへんで、帰ろうかっ」

えりは、話を変えた。

「ま、もうすぐ5 時だしな」


「じゃね、孝司。バイバイ」

「うん、バイバイ」

「じゃ、お邪魔しました」

湊がそういうと、えりは、

「バイバイ、春乃ちゃん。湊もまたね」

「…うわっ…」

「何?」

「やだな…。びっくりしちゃったよ…」

「でしょ」

「やだな…」

「何で?」

「えりに優位に立たれたくない…」

「…性格悪ーい」

「あ…、隠すの忘れてた…。忘れて」

「忘れられるかいっ」

「…。ま、いっか」

湊は、くるっと反対を向いて、春乃と歩き出した。

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