第4話 りゅうのカミさま③

「神に誓います! 我々は今までの冒険者に嘘の情報を言ったり、調査の前に毒を盛った何てことは、絶対に、誓ってありません!」


 ……聖域は何も反応しない。

 村長のやつも、焼きダルマにならない。


「そういえば勇者さんって、童貞でしたっけ?」


「は? 童貞じゃないが? ギャァァァぃァァァァァァァ! あっつつうううぅぅぅぅぅぅぅぅ!」


 灼熱地獄が俺に襲いかかる。

 熱いよぉ……。


「聖域の裁定は、ちゃんと機能していますねぇ(¯―¯٥)」


 クルミのやつ、俺を実験台に使ったな?

 覚えてろこの女。


「では、なぜこの村のクエストを受けた冒険者が消えていくのでしょうか」


「……」


 村長のやつはだんまりを決め込む。

 まぁ、心当たりがあるんだろう。


「ツヅケテ、裁定ヲ定メル。聖域ニオイテ、問ヲ拒厶事ハ許サレズ、灼熱ノ痛ミヲ以テ償ワレル」


 セリーナは追加の裁定を定めた。

 これで、村長も黙りは許されない。


「勇者さんって、初体験はどんな娘でした?」


「………………………。ギャァァァぃァァァァァァァ! あっつつうううぅぅぅぅぅぅぅぅ!」 


「村長さん? こうなりたくなかったら正直に話すべきだと思いますぅ……(*^^*)」


 こいつ、(味方の)俺を見せしめの道具にしやがった。

 熱いよぉ……。


 しかし、流石は盗賊。

 恫喝や見せしめなどの恐喝のやり口が上手い。

 村長は、諦めたように口を開いた。


「お話……します。まず、ムンドォー湖で人々が行方不明になるという現象ですが、実は、原因は分かっているです」


「まぁ、それはそうでしょうね」


 これまでの会話で、だいたい察することができる。


「龍神様、とかいうヤツのせいでしょ?」


 ウィンが問いかけると、村長はゆっくりと首を縦に振る。


「今から2年前、ムンドォー湖に、硬い鱗に覆われた、大きな三ツ首の龍が現れ、月に一度、金財降り注ぐ日に生娘一人、献上しろと言ってきたのです。

 それが言うには、それはかつてこの地を治めた龍神様だというのです」


 金財降り注ぐ日、というのは25日のことだ。

 この世界では、給料日のことである。


「それで、村の若い女どもを毎月献上していたのですが、ついにストックが切れてしまって……」


 いやいや。

 ストックって。

 マリオじゃないんだから。


「そこで思いついたのです。

 冒険者や旅人を呼び込んで、若い女を献上しようと……」


 そこまでは、俺らの憶測どおりだ。


「それで、若い女の冒険者に毒を盛って、地下室に監禁しようと……」


「……」


「……」


「……」


 思ったより非人道的なことやってやがった。


「1年ほど前のことです。若く純粋な、魔法使いの旅人がこの地を訪れました。

 色々な話をして、この地の神秘、歴史について語り合いました。 

 そして、気づいたんです。


 多分コイツ、生娘だな……って」


 最低すぎる。 


「そこからは、まるで一瞬の出来事でした。たまたま家にあった、睡眠薬をお茶に混ぜ、彼女に提供しました。一抹の罪悪感を覚えつつ、彼女をたまたま村にあった地下室に監禁しました。

 そして、たまたま、翌日が金財降り注ぐ日だったので、そのまま、本当にたまたま、龍神様に献上したのです」


「その、本当にたまたま、なんですか?」


「ええ、もちろん、たまたまです。マリィトワ神に誓って。もしかしたら、こういう風に他所から若い女を掻っ攫うってことを考えていた、ってのは否定できません。ただ、それでも、村の人間が勝手にやったことなんです。マリィトワ神に誓って、たまたま……グフぇ!?」


 村長が語り終える間もなく、セリーナは硬いゲンコツで彼の顔面をブン殴った。


「これ、たちが悪いのは、多分罪悪感なんて一切無いだろうし、コイツの言った『たまたま』っていうのも本当なんだろうな。聖域あるし」


「本人は本当に、たまたま、と思ってるんでしょうねぇ(;´∀`)

 おそらく、村長からしたら睡眠薬を盛っただけで、地下室に監禁からは他の村人のせいだから、俺は悪くない。

 逆に村人からしたら、村長が睡眠薬を盛ったから、村長が悪い。そんな風に思ってそうれすぅ……(-.-;)」


「閉鎖的なコミュニティ特有の狂気の肥大化だなぁ。自己の行為を心のなかで正当化してんだろーねー」


 はぁ、と俺はため息をついた。


「……ねぇ、勇者。少し聞きたいんだけど良い?」


「ん? 良いけど」


「この村長って、旅人や冒険者に毒を盛っていたのよね?」


「そうだな」


「さっき食べたお菓子や、お茶って……」


 ウィンが村長の方を見ると、村長はコブのできた顔で、ウィンの疑問に答えた。


「申し訳ありません。

 ……毒を盛らせてもらいました」


「やっぱり!」


 と、ウィンが気付いたものの、もう遅かった。


「うっ……!」


 ウィンは立つこともままならず、崩れ落ちる。

 ゲホゲホ、と咳をし始めた。


「あ、あなた……よくも天才魔道士のわたしを……!」


「これも全て、村のためなのです……。毎月、生娘を一人差し出さなければ、我々は龍神様に滅ぼされてしまう……。お許しください……」


「ちなみになんですけど、俺はどうなるんです? てか、男女混合パーティの場合、男性はどうなるんですか?」


「貴方は村の奴隷として農村に従事してもらうか、肉を解体して、村の食糧不足に貢献してもらいます」


 いやエグいエグい。

 何さらっとR18Gの設定を語ってるんだよ。


「ちなみに、なぜカーイ国軍へ討伐依頼を出さないんすかぁ?(;^ω^)

 国軍なら、その龍神様ってやつを倒せるかもしれませんよ(・・;)

 例えば、あの全国を旅して回っている勇者パーティが力を貸してくれるかもしれないのにぃ……」


 クルミは的確な質問を突く。

 カーイ国軍なら、それなりに優秀な人材を揃えているだろうし、それでも難しければ俺が出兵されることだろう。

 

「とんでもない! なぜ他所者の群れどもにみっともなく頭を下げないといけないのでしょうか!?」


 なんだコイツ。


「我々は1000年も前からこの地で育ち、この地を守り、この地と共にした民族なのです!

 それが、たかだか凡俗な他所者の力を借りて、借りを作るなんてありえない。我々は選ばれし、神秘の民族なのですぞ? 

 カーイの平民などに頼むことなど、何もありません!」


 京都人みたいな奴らだな。

 自尊心と中身が伴わない典型的な世間知らずの田舎者じゃないか。

 そのくせ語るのは、土地の歴史という救いようのなさである。


「さて。そろそろ毒も回ってきたことでしょう。女は捉えて地下へ、男は殺します」


 村長は懐に隠し持っていたナイフを取り出し、「ぐへへへ」と笑いながら俺たちに近づいた。


「そいや、地下には現在、何名の女性が捉えられてるんです?」


「今は2名ですね。盗賊の女と、聖職者の女です。聖職者は女が多くて、助かりますよ、フフッ」


「……」


 セリーナがブチギレ寸前だった。やば。


「待て、セリーナ。お願いします、待ってください。まだ得られてない情報もあるんです、ステイ、ステイ、ステイ」


 俺はセリーナの腕をホールドして、彼女が暴れるのを抑えた。


「ふふふ。ふざけていられるのも今のうちですよ……。そろそろあなた方にも毒が回ってくるのです……」


「うん」


「……」


「どうかしました?」


「……あの、もしかして、毒、効いてません?」


「うん」


「……」


「……」


 気まずい空気が、この場を支配した。


 勇者の俺と聖職者のセリーナは、マリィトワ神の加護によって、毒などの状態異常無効の加護を持ってるし、クルミは獣人特有の身体能力と、盗賊の経験から下手な毒は耐性を持っている。 


 ちなみに、ウインには毒耐性はない。

 

「……やはり、でしたか」


 何いってんだコイツ。


「私の目に狂いはなかった! 貴方がたこそ、この地に舞い降りた勇者の生まれ変わり! 

 無礼なもてなしをしてしまい、申し訳ありませんでした。

 しかし、今までのことは全て、貴方がたが本当に龍神様を倒せるに値する冒険者かをテストするためのものなのです!」


 俺はそっと、セリーナを抑えていた手を離す。


 村長は、まるでイノシシのように突進するセリーナの正拳突き食らって、壁を突き抜け、吹き飛んだ。


 女の子が監禁されてるっていう、地下の場所をまだ聞いてないんだけど。


 

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