第3話 りゅうのカミさま②

「おお、ようこそいらっしゃいました! いやはや! 皆さま、お強そうな方々がお揃いで……まるで噂の勇者パーティのごとき輝きですな!」


 俺たちはムンドォー村に到着し、村人たちからの案内を受け、村長宅に招かれた。

 村長は若干小太りの、白髪と白髭の初老の男という風貌だ。


「冒険者パーティーの『エンドライバー』です。クエストの概要をお聞かせ願いますか?」


「エンドライバー! 意味はサッパリですが、なんとも凛々しいお名前でしょうか!」


「あの、クエストについて……」


「貴方がパーティのリーダーですか? 若いのに何と風格のある御方……まるで噂に聞く勇者様の生まれ変わりのようですな!」


「いやまだ勇者生きてますよ」


 いやまぁ、勇者は俺なんだけどさ。


 というか、村長はおべっかを使うばかりで、本題に入ろうとしない。

 露骨に何か隠してやがる。


「クルミ、影武者の術は?」


「していますよ(^_^;)」


「じゃあ偶然か」


 俺たちは、基本的に旅先で勇者パーティを名乗らない。

 理由は勇者の存在があまりに神格化してしまっていて、勇者は無償でトラブルを解決してくれると思われているからだ。

 勇者だろうと、金は要る。

 というか、借金してるし。


「なんにしても、依頼の概要の確認に来ました。お話を伺っても大丈夫ですか?」


「いらっしゃって早速、依頼の確認だなんて、なんて勤勉な方々でしょうか! ささ、どうぞ中へ!」


 怪しすぎる。

 いちいちゴマをすらなきゃ喋れないのかこのジジイ。


 俺たちは村長宅に入ると、客間へ案内された。

 それなりには広いが、質素な室内だ。

 テーブルは5人が使うには少し狭く、椅子も手入れされているようだが、高価なものではない。他には、観葉植物とカレンダー、それにマリィトワ神が描かれた小さな絵画が1つ。

 あまり裕福な村ではないな、というのが第一印象だ。


「こちら、アーチ国秘蔵の紅茶になります。勇敢なる皆さまにふさわしい逸品となります。ご賞味くださいな」


 村長は4人分のカップを俺たちに差し出した。

 俺は試しに香りを嗅いでみると、それは茶の名産地、アーチ国のものじゃないとすぐに分かった。

 俺はクルミの方を一瞥すると、彼女は冷ややかな目でカップを眺めながら、それを飲んでいた。 

 食い意地が張っている分、こういうセンスは相当に高いんだよな、この女。


「アーチ国の茶とは、お目が高いわね!」


 あ、バカがいる。


「アーチ国の茶といえば、かつてエルフも愛した至高の神秘! それをわたしのような高潔な魔道士に献上するなんて、良い目をしているわね!」


「そんなに凄いものなのか?」


「はー、勇者はわかってないわねぇ……。アーチ国の茶葉といえば、エルフも愛した神秘よ? 数々の魔法使いも愛飲した名茶の1つ。もしかして、この場でこの紅茶にふさわしい者は、天才魔道士のわたしだけかしら?」


 バカは無い胸を張りながら、語ってみせる。

 哀れなり。


「それで、クエストのことですが『ムンドォー湖の周辺調査』でしたよね。原因調査の後に解決ではなく、原因判明の時点で報酬が別料金で支払われると聞きましたが」


「はい! 我々としても、未だ原因の一切が掴めないというのは恐ろしくて仕方がありません……。今も村人や旅人の方々が行方不明ということで、観光にいらっしゃる方も激減している状況……。せめて情報や対処法だけでも判明してくれれば、いくらでもやりようがあるものですが……」


「なるほど、村人だけじゃなくて、ムンドォー湖に観光しに来た旅人も行方不明なのですね」


「はい、このようなことが起こる前は、多くの旅人がこのムンドォー湖にいらっしゃったものです。しかし今では、悪評のためにそれらも激減し、村の収入も激減しました……。

 今も村の子どもたちは日々お腹をすかせ、夜も眠れぬ毎日なのです!

 どうか皆さま、我らをお救いください!」


 村長はまるで歌劇でもするかのようなテンションで懇願してきた。

 俺はどうにも演技臭いと感じつつ、クルミをちらりと見ると、彼女は興味なさげで、アクビをしていた。対してセリーヌは気の毒そうにしている。


「話は分かりました。我々も全力でお力になりたいと思います」


「おお! なんと力強いお方か!? 私の目に狂いはなかった、貴方方はこの村の勇者そのもの!」


 いや、まぁ俺が勇者なんだけど。

 本当に影武者の術、効いてんの?


「では、クエストに移る前に、いくつか尋ねておきたいことがあります」


「はい! 私に答えれることなら何でも!」


「過去に9パーティほど、この依頼を請けたそうですね。彼らの行方は?」


「その、彼らについては……」


「もしかして、ひとり残らず、ムンドォー湖に向かっては生存者なく、行方不明とか?」


「そ、その通りでございます」


「おかしいですね、実は以前、私の友人たちがこの依頼を引き請けたのですが、その時、友人は言っていたのです。


『調査だけで報酬が貰えるなら、嘘の情報を流して、ムンドォー湖に行かずにクエストを終わらせてやる』


と言っていたのですよ。

そんな彼まで、行方不明ですか」


 もちろん、嘘。


「そ、それは、すぐに嘘だと分かるようなことでしたので、突っぱねて、もう一度調査に向かわせたのです……」


「なぜそれが嘘だと分かったのです? 原因は一切不明だと言ったのは貴方ですよ? 真偽が不確かにも関わらず、よくそれが嘘だと分かりましたね。それに、もしも彼が嘘を言っているなら、普通はギルドに通報すれば良いじゃないですか」


「そ、それは……巨大な金魚の糞が意思を持って大陸全土を覆うような大きさまで成長し、我々に襲いかかってきたなどと嘘をいうので!」


「舐めトンかァゴラァ! ベラベラとハッタリ噛ますのもええ加減にせぇやァ!」


 咄嗟に怒声を浴びせ、机をひっくり返したのはクルミだった。

 恐っ。

 ヤクザやん。


「証拠は出揃ォとンねん!。はよ白状せェクソカスがァ!」


「ひっ! な、なんのことが私には……!」


「オノレらが冒険者たちを罠ーにハめて、毒なりで弱らし、油断をさそて高レベルモンスターと闘わせたんやろ!?」


「そんな、そんなことは!」


「せならなんで9パーティ全部行方不明なんじャ!説明しろ説明しろ説明しろ説明しろォ゙! ウゥォォォォォォ!!」 



 クルミは半狂乱になって、座っていた椅子を投げ飛ばし、観葉植物の茎を掴んで振り回し、壁を引き裂き、そのまま投げ飛ばして床に穴を開け、体全体を大きく揺らしながら地団駄を踏んだ。


 気が狂った。

 やはり関西人は異常だ。


 可哀想に、アホなウィンはお茶とお菓子を楽しんでいたのに、それらは吹き飛ばされてしまった。


「ち、誓って! 我々は冒険者に不利な状況を作って龍神様と闘わせたなんてことはしておりません!」


 村長は怯えながら叫ぶ。

 龍神様、ね。


「オドレゴラァァァ! 龍神様ってなんやねんゴラァ! 死ねカスゴラァァァ! 原因わかっとるやんけゴラァ! それともオドレは中日ファンかゴラァ!?」


「ち、中日ファンです!」


「じゃあ死ねカスゴラァァァ!!」


 クルミは床に丸まって怯えている村長をボールみたいに蹴り飛ばした。

 彼は壁に叩きつけられる勢いで吹き飛んだ。

 

「クルミ殿、落ち着きましょう」


 興奮しているクルミを諌めるのは、セリーナだった。


「ひぅ……セリーナさんっ(。>﹏<。) でもこのクソカス、白々しく嘘をついていますよぉ? (●`ε´●)」


「ではここからは、荒療治ですが、懺悔のお時間です。私にお任せあれ」


 セリーナは部屋の中央に立ち、静かに瞳を閉じた。


「セリーナ・グリスバチィ。ソノ名ノ下、聖域ヲ広ゲル」


 彼女がそう唱えると、彼女を中心に光の領域が広がる。


「裁定ヲ定メル。聖域ニオイテ、嘘偽リハ、灼熱ノ痛ミヲ以テ償ワレル」


 セリーナは、聖域に対して、『嘘を言ったらペナルティが発生する』というルールを課した。

 これで、俺たちにも村長が嘘偽りを言っているかどうかがすぐわかる。


 さて、ここからどう料理してやろうか。

 そんなことを思っていたところ、意外や意外、真っ先に口を開いたのは、村長であった。


「神に誓います! 我々は今までの冒険者に嘘の情報を言ったり、調査の前に毒を盛った何てことは、絶対に、誓ってありません!」


「……」


「……」


「……」


 嘘を、言ってない?






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