第三章 37話 寿満子の夫 可機田学 1
2月26日朝9時。しーちゃんこと渡辺志津子は負傷したヨシカズに付き添って駅前の武田外科へ行き、処置室の前で待ちながら今朝の出来事を思い返していた。
ヨシカズからの連絡で寿満子のアパートに行くと、警察車両が2台来ていて物々しい状況だった。頭部から出血していたヨシカズはタオルで傷口を抑えていた。そのタオルは血に染まっていた。
「寿満子にやられたの?」
寿満子の部屋は散らかっていた。タンスや床には脱ぎ散らかした衣服が散乱し、コンビニの弁当箱やペットボトルが床に中身ごと投げ捨てられていた。
「いや、そういうことじゃない。オレが自分で転んだんだ。みんな誤解している」
ヨシカズはことを荒立てたくないという様子でそう言った。
「いろいろ言い合ったけど、この怪我は彼女のせいじゃない。被害届は必要無い。」
警察への通報者は寿満子の隣の部屋の男だった。
早朝にどかどかと人が隣に駆け込む音がして、悲鳴が聞こえた。
その後、何かがぶつかる音がして、壁が揺れた。複数の人間がいる様子だった。
「借金の取り立てかなと思って怖くなった。お隣さん、仕事している感じがなかったから、どうやって生活してるんだろうと気になってました」通報者はそういった。
だが、隣人の男は警戒して物音がしても、部屋からは出て確認することはなかった。隣人トラブルに巻き込まれたくなかったという。
110番通報をしたあと、じっと部屋の中でパトカーが到着するのを待っていた。
彼が聞いたのは、隣の物音だけだった。振動は伝わってきたが、人影はみていない。
ただ、二階から寿満子が飛び降りたときの音は大きくかった。その時だけは窓に近づいて、そっと外を確認した。部屋着のまま走り去る女の後ろ姿は確認した。
「その人の様子はどうでしたか?」
「足を引きづっている気はしたけれど、走っていたので大きなけがはしていなかったとおもいます。」
彼女は自力で走っていた。何かの事件に巻き込まれたとしても、元気だったことは確認された。
ヨシカズと志津子は通報者の証言を警官の横で聞いていた。
「あの子、寿満子は逃げたあとうちに来たんだよ。捕まえておけばよかった」
「佐々木寿満子さんが?」
「あんな女にさんなんていらない。ヨシカズにケガさせたのに」
「なんか精神的に不安定なヒトだね。寿満子さんは…。キミの友達だから、力になりたいと思っていただけなのに…。」
なんで、私に内緒で寿満子に会っていたのと警察をそっちのけで、オンナは怪我をした男に噛みついていた。浮気を疑っても仕方ない状況だ。通報者も警察も、どうやらここで起きた事件は、浮気相手のこの女との痴話げんかなのだろうと通報者も警察も感づいていた。
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