第45話 シャッターと波の音を五感で刻む
社会人になっても、先生との交流は絶えずに一緒にドライブやデートをした。
私が車の免許を取ってからは私が運転することもあった。
お酒も一緒に飲んだ。体も重ねた。将次さんと過ごす時間は楽しかった。
「先生、今日はどこに行きたいですか」
先生の部屋で二人でベッドに座っているといつものように先生は眠そうな顔で
「どこでもいい。君と一緒に居られるならどこだっていいんだよ」
と言って笑う。私も笑った。
「昨日、あんなにお酒飲んでたからですよ。弱いくせに」
「君もすぐ寝ちゃうくせに」
とむすくれられた。
「頭痛くない?」
「平気」
そう言ってお水を渡した。
クリスマスケーキは、ストロベリークリームプチケーキとチョコのハーフアンドハーフのホールケーキを食べた。毎年、クリスマスにはお兄ちゃんが作ってくれたショートケーキを食べていたけど、今年は特別だった。
「美味しいですね」
とフォークで一口食べると将次さんは笑って
「でしょ?頑張ったんだから。プチケーキ」
「ホールケーキはお兄ちゃんが作ったけど」
「あーね」
私は笑った。ホテルのテーブルに座って昨日はそうやってお酒の瓶を開けながら話していた。
将次さんはお酒を片手に
「来年の予定とかあるの?」
と聞いてきた。
「まだ、全然考えてないんです。将次さんこそどうなんですか?」
「僕?僕は……そうだな。また、来年もこうやって洋菓子店でケーキを作っているお兄ちゃんがいる茉裕ちゃんの側で、僕が作った不器用なケーキを食べてもらいたい」
「いいじゃないですか」
「うん」
今日は星がよく見えた。
クリスマスも終わってしまって、もうすぐ大晦日。ホテルを出て、家まで送ると言って車を走らせている将次さんと話す。
「子供みたいにはしゃいでいる私は、昔の私と全然違うや」
「昔って?」
「先生だった将次さんと出会う前。中学とか。おばあちゃん死んじゃって色々あってね」
「そっか」
「でも、今は将次さんが側にいてくれる。将次さんが守ってくれる。将次さんが支えてくれてる。将次さんの優しさが今の私の支えになってる」
「僕はただ、君のことが好きなだけ。それだけだよ」
「ありがとう」
「こちらこそ」
海が見えてきて私は疑問に思う。
「あれ?家って違くないですか?」
「んー、ちょっと寄り道」
そう言って車を走らせる。数分後にコンビニの端っこの駐車場に停めて
「好きなの買ってあげるから降りて」
言われて降りてコンビニの中に入ってショートケーキを買ってもらう。
「昨日、あんなにケーキ食べたのに」
将次さんは笑って買ってくれる。
「少し歩こう」
そう言って将次さんは私の手を引いて歩く。
「ショートケーキ持ったまま?」
「肉まんと餡饅が良かった?」
「あー、そんなこともありましたね」
「あれは何年前だ?」
「私が高一の冬です」
「茉裕ちゃんが今年で社会人になったから結構経つね」
「ですね」
「どう?ウエディングカメラマンは?」
「大変だけど、幸せですよ。幸せになれる存在を見つけた二人の微笑ましい姿が綺麗に見えます。結婚が全てじゃない時代にパートナーを見つけて、笑い合っている二人が輝いてます。本当に幸せなんだなって」
「そうかー」
将次さんはメガネをつけなくなった。高校の教師をしている。クラスを持つようになって五年は経つが、生徒からも人気らしい。将次さんの何やかんや優しい人柄が出ていると思う。
「将次さんの方は?」
「僕の方も順調だよ。まだまだ未熟だけど」
「お互い、仕事が忙しくなって時間があまり取れなかったので嬉しいですね」
「うん」
「風李さん、今お仕事でハワイ行ってるんですよね?」
「君のお兄ちゃんも楽しんでるって写真見せてきたじゃないか」
「じゃあ、私達も後でツーショット撮らないとですね」
「ああ」
堤防を歩く。あの時と同じ。冬の海辺は冷たい。
「将次さん」
「んー」
「呼んだだけ。お昼はこのショートケーキでいいです。美味しく食べます」
そう言って笑う私を将次さんは微笑んで見ているが、どこか緊張しているように見える。
「茉裕ちゃん」
「なんですか?」
冷たい風がなんだか今だけ心地良い。
「結婚しよう。僕と結婚してください」
「……はい」
「君と一緒にこれから先もずっと一緒に居たい。愛してる」
「はい」
涙が出てきた。嬉しかった。
「返事は『はい』しか受け付けないよ」
「はい」
「今度、指輪買いに行きましょう」
「はい」
「はいばっかりじゃん」
笑われた。
「はい」
私は笑った。
「私で良ければよろしくお願いします」
と言うと将次は笑ってくれた。
「ありがとう」
将次さんの笑顔は眩しい。冬の太陽みたいに眩しい。
私達は手を繋いで歩き出す。海を見ながらゆっくりと歩いていく。
「将次さん」
と呼ぶと将次さんは振り向いてくれる。その瞬間にキスをした。唇を離して
「大好き」
と言って抱き付く。将次さんも
「僕も」
手を私の背中に置く。
「今は、温もりが欲しいから抱き締めてるの?」
「ううん、愛しているから抱き締めてるの。心の底から愛してるんです」
波の音に紛れ、私はシャッター音を鳴らした。
お兄ちゃんにメッセージを送る。
『私の隣いる人が夫です。恋して、愛してます。たまらなく愛しているのです』と
〈了〉
【改訂版】恋して、愛してます 千桐加蓮 @karan21040829
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