第44話 卒業

 卒業式が終わると最後のホームルームで泣いた担任につられてみんなは泣く。私は窓の外を眺めて少しばかり向月先生に出会って変わった三年間振り返った。優しさに溢れて、それに泣きそうになってしまう。

 卒業式に来てくれたお兄ちゃんと写真を撮った。お兄ちゃんの慣れないスーツ姿は新鮮だった。

 それから、お兄ちゃんを学校の裏の駐車場まで来てもらう。

「どうしたの?」

お兄ちゃんは不安がっていた。それから、とある車の前で立って待っていた向月先生を見て目を見開く。

「風李の……」

と呟いてお辞儀をする。

「あの、風李の」

「幸せになって下さい。これからも、望さんの側で兄さんを支えてください。助け合って。お互いに。でも、こちらからもお話しがあります」

私は将次さんを見た。

「僕は、本気で茉裕さんとお付き合いしていました。これからもお付き合いを続けていきます」

将次さんの言葉を聞いてお兄ちゃんは何も言わなかった。将次さんは続けた。

「僕達も支え合っていきます。人は一人じゃ生きていけませんから」

私は笑顔で答えた。

「風李さんのことは任せた」

この答えでいいのか分からない。でも、これが私の精一杯の気持ち。

「いいの?風李のこと、好きじゃないの?」

「……え?」

「すき、好きなんじゃないの?」

「好きだけど、好きだけど」

「俺が風李のこと好きだから……って。だからかなって」

と言って私の言葉を遮ったので、私は

「違うかな。今は違うかな。でも、将次さんも風李さんも大好きだよ。二人のこと尊敬してる」

「そっか」

とお兄ちゃんは言った。

「茉裕」

「はい」

「ありがとう」

お兄ちゃんのありがとうの後に

「ありがとうございます」

と、私の手を将次さんは握って言った。


 お兄ちゃんは先に家に帰る。私は将次さんの車に乗る。

「ありがとうございました。向月先生」

私は発車した車の中でそう言った。

「もう、大人だね」

私は、笑った。

「ありがとうございます。将次さん」

「あんな、きっぱり好きじゃないかって聞かれて、違うって言うとは思わなかった」

「手が震えてます。私、心臓がまだドクドクしている。私、子供のまんま。何も変わってない。自分の気持ちも分からなくて、誰かを傷付けてばかりで」

「大丈夫です。茉裕ちゃんは変わりましたよ。それは、あなたを見ていた周りの人が証明してくれています。だから、自信を持ってください」

と、将次さんは優しく笑ってくれる。

「はい」

私も笑った。

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