第43話 愛してるからこそ
「望」
俺は寂しかったのかもしれない。お母さんはいつも優しかった。
俺の知らない所で沢山働いて、お金を稼いでくれたからご飯を食べれた。服もあった。おもちゃやゲームを買ってくれる余裕がなかったとはいえ、優しい記憶。
「望さ、お父さんのこと少しは許せそう?」
風李が俺の部屋で話を聞いてくれている。茉裕は隣の部屋でゲームで遊んでいるから聞こえていないはず。
「正直分からない」
「うん……」
「でも、いつかは許したいと思う。だってお父さんなんだからさ」
「そうだよね」
ハンガーにはスーツがかけられている。滅多に着る機会なんてなかったから、どういう気持ちで茉裕の高校の卒業式に行けばいいのか分からない。
「今日は卒業式の予行練習だったってさ」
「茉裕ちゃん、大きくなったね。だって自分で前を向いていこうとしてるから」
「……愛されてるんだよ」
風李が微笑んで
「俺の弟?」
聞いてきたので、コクリと頷いた。
「本人達は言ってないけど……バレてるぞー」
そう言って、風李はケラケラと笑いながらベットにもたれかかる。
お母さんと過ごした時間があるから、俺は生きていられている気がする。茉裕と過ごした日々。風李の記憶も
俺は中学に入ってから不登校気味になった。マンモス校なのもあり、小学校からの知り合いが多いので学校に行きづらかった。
お母さんとは定期的に連絡を取っていたが、会いたいと伝えても会ってもらえなくてイラつきを感じていた。
「おばあちゃん」
「なんだい?」
「なんで、お母さんは俺達と会わなくなったの?他の人と結婚したの?」
祖母は皿を洗いながら
「違うよ。二人を愛してるからこそだよ」
そう言うだけだった。
俺はそれが、悲しかった。俺達が憎いわけではないということだけ理解出来た。
お母さんに会いたい、ただそれだけを考えて中学校生活を送っていたある日、お母さんが俺に内緒で祖父母の家に遊びに来た。俺は、久しぶりに見るお母さんの姿に胸が締めつけられた。
髪色はそのままで、髪は下の方で一つに結っていた。三十になってはいたと思うけど、そんなことはないんじゃないかっていうくらい若々しい姿をしていた。
リビングに入ってきた時も緊張していたようでソワソワしていたのを今も覚えている。
「元気だった?大丈夫だった?怪我とか病気とかしてない?」
心配性なのか何度も俺の体を確認してきた。
「うん」
照れ臭くてどうしたらいいのか分からなくなる。
「お母さんね、お仕事でアメリカの方に行くことになったの」
俺はびっくりした。なんの仕事しているかも知らなかった。
お母さんの話によればアメリカに拠点を移して活動するらしい。
「頑張って」
本当は寂しくて泣きそうだったけど我慢してそう言った。
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