第42話 あたたかい
「茉裕ちゃん」
「んー」
「起きて」
「将次さん」
「もう朝」
「朝?」
冬の朝はなんだか眩しいような気がする。寒いのに、暖かくしようとしてるみたいに。
「家です」
将次さんの笑い声。
「おはようございます」
と言われたので
「おはよう御座います」
と言う。
冬休みにも何度もドライブをした。寒くなって外に出るのは億劫になり、暖房が効いた車の中で二人でお話しをして音ゲーをしている私を見てきたり、先生の話を聞いたりした。
学校が始まってもほとんどが休みだったので、将次さんと過ごした。
「今日は、先生なんですね」
「んー」
学校帰りの先生を見て私は言った。
「メガネつけているので」
先生は笑って
「そろそろどうなの?兄さんと僕の区別がついたかなって」
私は虚しく笑って
「先生にも風李さんもいいとこが沢山で、私が側に居ていいか疑ってしまう」
「……」
「なんで、私と二人っきりの時はメガネをかけないんですか?私が高一の時の、夏祭り帰りの公園でつけなくていいって言ったから?それとも、プライベートだから?」
先生は黙っている。
「私には、風李さんも将次さんも向月先生も、みんな同じように見えてしまうんです。だって、こんなに素敵な人達だから」
「……」
「私のこと好きなんでしょ?」
「うん」
「そう、だよね。私は先生の気持ちに応えたい。けど、まだ、風李さんに執着している気持ちが抜けていないなって思っている。ごめんなさい。ずるいですよね。最低だなって自分でも思ってます」
「そんなことはない。君が、兄さんのことを好きだってことは分かってるよ。でも、僕のことも見てほしい。僕は、茉裕ちゃんのことが好き。ずっと好きだったよ」
「ありがとう」
そんな、優しすぎるよ。
卒業カレンダーをペラペラとめくると実佳が廊下から声をかけてくる。井上さんも実佳とも二年生から違うクラスになってしまった。けれど、廊下ですれ違ったら手を振ったり話したりする。
「卒業だね」
「うん」
「早いね」
「そうだね、実佳は理学部だっけ?頭いいよね」
「んー、頑張ったんだよ」
「そうだね、逃げなかったんだね」
「え、うん」
実佳を見て優しく私は微笑んだ。
「井上さんは、美容の専門学校に行くって」
「そっか、いいじゃん」
私はニコッと笑った。
卒業式の三日前に卒業アルバムを貰う。向月先生に元に向かうと女子生徒が沢山いてそこに井上さんがいた。
「やっほ」
「こんにちは」
と挨拶をする。
「書いてもらいな。でも、みんな同じコメント。卒業おめでとうだった」
と井上さんはそう言って笑って違う先生の元に行ってしまった。
肩を叩かれる。
「書いてほしいの?」
私は
「書きたいんでしょ?」
と呟くと先生は無邪気に笑った。
書いてもらったアルバムのコメントをその場で見られるのは恥ずかしいと言われてしまったので家に帰ってから見る。
『卒業おめでとう。これまでではなくてこれからに目を向けれる人になれたのではないでしょうか?楽しいよ。一緒にいるのが』
「これから……」
これから、どうなるんだろう。
「ただいま」
「おかえり」
「これあげる」
お兄ちゃんが渡してきたのは小さめの紙袋。中には、腕時計が入っていた。お兄ちゃんが高校入学祝いに買ってくれたものと同じブランドのもの。
「二台目」
そう言って私の頭をぽんぽんと撫でた。
「ありがとう」
私は笑った。
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