第41話 一緒がいい
その男からお金を貰っているのか、夕食が豪華になった。
「おかわりする?」
と聞いてくるようになった。
複雑な気持ちだった。俺はただ、お母さんが遠くに行ってしまうような気がして怖かった。
案の定その勘は当たって、小学校卒業と同時に父方の祖母の家に引っ越すことになった。
お母さんは暗い顔をして
「ごめんね」
と繰り返し言うばかりだった。
父親は夜勤が多かったのもあり、お母さんにもっと寄り添ってあげたら良かったのにと苛立ちを感じていた。
「お母さん、会えなくなるの?」
「ごめんね」
「誰のせいなの?」
「……話し合わなかったのが悪いのよ」
お母さんはお父さんと違って、仕事もしてて忙しいのに授業参観にも運動会にも親子参観にも学校行事には出来るだけ行きたいと言って来てくれていた。お父さんは仕事があるとか言って、一度も来てくれなかった。
高学年になるにつれて、クラスメイトは
「親とか来なくていい」
とか
「恥ずい」
とか言っていたけど、本心ではないような気がしていた。俺は意地なんて張らずに学校でお母さんと過ごせるのを楽しみにしていた。
お母さんは他のお母さんよりも若かったから
「望のお母さん若ーい」
とか
「可愛いー」
とは言われていたが、よそのお母さん達の目は痛そうだった。一匹狼のように見えたが、俺と特に仲が良い友達のお母さんは
「お世話になってます」
と言ってお母さんに話しかけていて、お母さんは楽しそうに色々話していた。
俺も嬉しかった。お母さんが笑ってくれていたら、俺はそれでよかった。
授業参観で自分の生い立ちを手作りのアルバムにするという授業ではお父さんが昔撮ってくれていたと言う写真を持って来てくれた。
「お母さんが撮ったんじゃないの?」
「お父さんが、撮ってくれたんだよ」
何故かお母さんが嬉しそうに笑うのを見て、何にも言えずに
「ふーん」
そう言った。
運動会の親子競技で手を繋いで一位をとったこと。親子参観で一緒に作った写真立ては貝殻だったり、タイルだったり、キラキラのシールを装飾した。
「お母さんが昔集めてたの」
作業をしている時にそう言った。
確かに、女の子らしいというか、ギャルシール的なのが多かった。
俺は、それが嬉しかった。一緒にいてくれるのが嬉しかったのに。
小学校の卒業式にお父さんは仕事があると言って来なかった。代わりにお母さんが来てくれた。
家に帰ればもう、お母さんと一緒に過ごせなくなる。実際、そう言われていたので俺は家に帰りたくないと駄々をこねて、お母さんと一緒に遠回りの道で帰っていた。
公園を通って帰ろうと思っていたが、滑り台をすべりたくなってしまって、お母さんにランドセルを持ってもらって、滑った。俺は無理に笑っている気がする。
「お母さんと同じ髪色だね……望」
滑り終わって、お母さんの方を向くと泣いていた。
確かに、俺は母譲りの暗めの薄ピンクの髪色をしている。
「望は、お母さんと顔が似てて……これからが楽しみだね。きっと美少年から美青年になるのかなぁ」
化粧が落ちてしまうと笑いながら泣いていた。
俺は、お母さんの方に走って行って抱きしめた。
公園には誰もいない。だから、思っていることを泣きながら言った。
「お母さんと一緒がいい!!なんで?俺、お母さんのこと大好きだよ!だから一緒がいい!なんも悪くないならいいじゃん!一緒でもいいじゃん!」
親権がどうのこうのとか、離婚というのもいまいち分かっていなかったので、咄嗟に頭に浮かんできたことを吐き出す。
「茉裕もいるじゃん!俺、お母さんがいい!もう会えないのは嫌だ!」
するとお母さんは震えた小さい声で
「もう、会えないだなんて……言わなきゃ良かった」
そう言って俺を抱き寄せ
「嘘、本当は会える。望がお母さんのこと大好きだったら、また会える」
涙は流れっぱなしだけど、笑ってそう言った。
俺はその言葉にどれほど安心しただろう
「じゃ!俺が迎えに行く!離れ離れでも、お母さんはお母さんだもん!」
俺の笑った顔を見て、お母さんは寂しそうな目をして微笑んだ。
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