第35話 お裾分け

 文化祭の打ち上げも行かず、茉裕ちゃんは僕と一緒がいいと言った。翌日は代休で休みということだったので、家から少し遠いホテルを予約して泊まった。彼女は文化祭が終わって一度家に帰って制服から私服に着替えて僕と駅で待ち合わせをした。彼女は空色の薄い生地のワンピースを着ていた。可愛らしくて素敵だけど、シルエットが綺麗に見えるからか高校生にしては大人びていて少し心配になる。彼女は僕の手を引いてホテルへと歩き出した。

ホテルに着くと、チェックインを済ませてエレベーターに乗り込んだ。ドアが閉まって上昇し始めると、彼女が腕を組んできてきてドキドキしてるのが分かる。部屋に辿り着くと荷物を置いて、二人でベッドに座って話していた。

「今日は何する?」

僕は彼女を横目で見た。その目はどこか期待しているように見える。

そう見えるだけなんだけど。

「そうだなぁ……」

僕はそう言いつつ彼女の頭を撫でていた。彼女は気持ちよさそうに目を細めていた。

「何食べたい?」

「……え?」

「腹が減ってたら戦は出来ぬ」

上から目線で笑って彼女を見ると、彼女もつられて笑った。

「もう!何それ」

そう言って笑いながら立ち上がって

「じゃあパスタ」

と言った。それを聞いて

「じゃあ行こう」

そう言って、彼女と手を繋いでレストランまで向かった。


「おいしい!」

茉裕ちゃんは、目を子供らしくキラキラと輝かせていた。彼女はたらこパスタで僕はナポリタンを食べた。昔ながらの味がして美味しい。彼女が食べ物を食べている姿をまじまじと改めて見ると可愛らしくて頭がおかしくなってしまいそうだ。外は秋風が吹いていて、窓が少し揺れる。

「本当に美味しいです。あ、たらこパスタ一口食べますか?」

と、皿をこちらに見せてきたので

「あーんしてくれたらかな」

ニヤニヤ笑って、からかってみた。すると彼女が平然とした顔で、たらこのソースを程よくつけて麺と絡めたフォークを片手はフォークの下に、もう片方はフォークを持って

「あーん」

彼女自身も軽く口をあける。なんだか僕が恥ずかしくなってしまったので、間は置かずにさっと食べる。

美味しいか答えてほしげな顔をしてくるので

「美味しい」

と答えると、にっこりと笑った。

「じゃあ、次は将次さんがどうぞ」

「え?」

「私にそのナポリタンのお裾分けは?」

どこでその可愛い技を取得したんだと思う。

「早くー」

彼女は足を軽くバタバタさせて焦らせてきた。

「……うん」

なんか僕がおかしいことをさせられている気分になってきた。気を取り直して

「茉裕ちゃん、どうぞ」

フォークに絡めたナポリタンを彼女の小さい口に運んだ。すると、嬉しそうな顔でそれをパクッと食べた。その後モグモグと口を動かし飲み込むと、また嬉しそうにしているので、こちらも嬉しくなってしまう。そして、僕は彼女の口元についたケチャップを拭う。

「ん、ありがとうございます」

「いえいえ」

お互いに顔を合わせて微笑む。そして彼女は僕に近づいてきて頬っぺにキスをしてきた。唇が触れる感触に体が硬直し、心臓の音が速くなって、顔に熱が帯びてくる。僕も彼女にお返しのつもりで彼女の柔らかい髪に触れた。視覚で他の客には見えないだろう。僕達がこんなに愛し合っているのは。

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