第36話 お湯

「昼間はなんとも思わないのに、夜は冷える気がする」

大通りを歩いてホテルに向かった。僕はステンカラーコートを深く着た。

「そうですね。だから温かい飲み物が欲しいです。ココアでも買いませんか?」

そう言って彼女は、自動販売機で缶ココアを買った。ホテルの部屋に入ると僕はソファに座って、彼女は僕の膝の上に乗ってきた。

「ねぇ」

「何?」

「私のこと好き?」

急に質問を投げかけてきた。僕は少し驚いて彼女の目を見つめ返す。その目はどこか寂しそうだった。

「好きっていうの、行動でちゃんと示してると思うんだけど」

納得しないような顔をしていたので

「お風呂入ろっか」

僕と目がまた合う。

「これから冷えるだろうからね」

バスルームは、アメリカの都心のマンションのようで広々としていた。浴槽も広くて二人で一緒に浸かることが出来た。彼女は僕の後ろに座っているからか、いつもより距離が近いように感じる。

彼女は僕を後ろから抱き締めるように腕を回した。首元に触れるか触れないかくらいのところにあった。そして僕の手を握ってきた。

「あったかい。向月さんの身体ってやっぱり男の子ですよね」

と、僕の腕をさすった。僕の背中に柔らかい胸が当たっていてドキドキする。

「私ね、昔から身体弱かったんです。風邪が長続きして、体育の授業とか参加できなくて。今みたいに手が温かかったのはいつが最後だっけ……」

彼女は何かを思い出しているようだったが、それ以上何も言わなかった。きっと、辛い記憶なのだと思った。だから僕は何も聞かなかった。ただ彼女の手に自分の手を重ねて包み込んだ。彼女は一瞬ビクついたけど、安心したかのように力が抜けていた。それから彼女の頭をよしよしと撫でた。

彼女がうとうとし始めたので僕が彼女をおぶさぶるような体制で、お湯につかっていた。彼女が落ちないようにぎゅっと強く抱きしめていた。

けど、体を軽くしか二人とも洗っていなかったので

「茉裕ちゃん、体と頭を洗って下さいよ」

頬を優しくペちっと叩くと彼女が起きて

「え?あ、寝てたのか」

そう言いつつ、彼女の身体を離すまいとしていた自分に気づく。彼女が立ち上がりそうになったので慌てて支えた。

「やっぱり髪が長いと洗うの大変ですか?」

彼女は首を横に振った。彼女の髪を丁寧に泡立てて洗い流していった。その後、僕はボディタオルで身体を擦るのだが、その時にも彼女の白い肌に触れてしまい理性を保つのに必死になっていた。

彼女の長い髪の毛も乾かした頃には、もう既に眠そうにしていた。

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