第33話 可愛いと不安
「まず!話をまとめると、向月君は生徒と付き合ってて不安な思いをさせてしまっている」
「……はい、おっしゃる通りです」
片手を頭に持ってきて髪をくしゃくしゃにする。朝、普段は整えない髪を、今日は整えたのに。
「まぁ、人の気持ちは全てを理解することは理解出来ないものね。その子、家庭環境が複雑だし、思うことも違うのかもしれない。けど……んーむずい」
と、ブツブツ言って口に手を当てて内木は考えている。
「彼女、本当は僕の兄が好きだった。だから後悔しないかって聞いたらしないって。でも、不安というか」
「向月君が不安になってどうするの!」
ノリ良くツッコまれる。
「生徒と付き合ってるっていうのも……ちょっとね……まぁいいわ。いや、よくはないけど。それにその子のことが好きなんでしょ?」
首を傾げながら、僕を見ている。
「うん、好き」
「なら大丈夫だよ。きっと」
胸を張って笑顔を向けられた。根拠もないのに説得力がある。これが大人の力?
「ありがとう」
内木にそう伝えると、照れ臭そうに笑った。
「でも、女子生徒と合意とはいえ性行為ってさ、何がどうなったの?向月君は情熱的だね!」
「うーん、それは……勢い?としか言えないかも」
「ふーん」
何かを探るような目つきで見てきた。
「えっと、そろそろ行かないと」
時計を見ると結構時間が経っていた。
内木は友達と来ていたらしく、席に戻って行った。
僕は会計をして車に乗って家に帰った。
「ただいま」
「おかえり。デートしてきたの?」
母はニコニコしながら聞いてきたが、僕のボサボサの髪を見て
「フラれた?」
突拍子もない質問をされて、目を丸くして母を見る。
「どうしてそんなことを急に言うんだよ。別に何もないよ」
「そーですか。お風呂入っちゃいなさい」
と言われたので、返事を返して部屋着を持って、風呂場に向かった。
湯船に浸かっていると、スマホの通知音が鳴る。茉裕ちゃんからだと思って急いで確認した。
『今日のお昼ご飯、美味しかったね』
写真も送られてきたので見てみる。その写真を送るところとかが可愛いすぎて、ニヤケ顔が収まらない。
『僕も、楽しかったよ。また行こうな』
と送った。
少し経ってから、既読が付いて
『やった!』
という文面と共にニコニコ絵文字が添えられてきた。嬉しくて、悶える。そしてすぐにスタンプも送られてきた。
「大丈夫、大丈夫……ね」
正直不安だらけだ。彼女の家庭環境の複雑さは、僕には計り知れないことだろう。
僕は、教師という立場を利用して彼女の心の隙間を埋めてしまっているのだろうか?
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