第27話 逃げるように

 高校一年になったあたりから、兄さんは急にキスがしたいというようになってきた。はじめは冗談でそんなことを言うなんてと思ったが、どうやら本気だと分かってしまった時は、心臓が止まるかと思った。

 ゲイなんだ。と僕の胸にストンと落ちる。

 兄さんは寂しがり屋だったのかもしれない。何人かの女の人と付き合っていたが、長続きはしていなかった。父に貰っていたカメラで写真を撮りに出かけるか、サッカーをするか、ゲームをたまにするか。本当にそれだけで兄さんの大半を占めているのかってぐらいの人だった。

 母曰く、僕も兄さんもお父さんに似てきちゃってるねと言っていた。僕の背丈は母親譲りだけど、なんとも言えない顔をしてそっと笑って言った。ただ、母も父と同じで美人だった。僕からしたら地味に綺麗だと思っていた。

 僕が失恋した隙間に入って、キスしてきた。案外気持ち悪いとも思うことはなくて、なんともって感じだった。

 それ以上は拒んだ。流石に俺は望んでいなかった。そして俺は逃げるようにバイトを沢山入れた。


 きっと、兄さんと性交はしなくて良かったと思う。今でもしないと望むことはないし。

 もし、何か一つ違うことがあっていいとするならば、兄さんの恋人になりたいとかそんなことは微塵にも考えなかったことだ。兄さんの好きな人になって、その人の好きな兄さんを兄弟として好きになりたいと思ったからだ。

 兄さんが高校の同級生だという人の家に行ったきり帰ってこなくて迎えに行ったことがある。定期考査が終わって午前帰りだったから、制服のままで。連絡を入れると中に入っていいらしいと言われたので、成り行きでそうすることにした。

 マンションのオートロックを開けてもらって玄関の前に行くと、小さい女の子がいた。茶髪で、キャラメル色と言えばいいのか……沢山ミルクを入れたチョコレートのような髪色をした髪をポニーテールにしているが、難しいアレンジが施されている。赤い瞳に白い肌。薄ピンクの無地のワンピースを着ていた。襟元のフリルが可愛らしい。膝下までの長さだった。お人形のような子だと思った。

「あ、の、こんにちは。ここに向月風李って人来てると思うんだけど」

女の子に目線を合わせるためにしゃがむ。

女の子は無口なのか喋らないので、家のインターフォンを鳴らそうとすると、腕を掴まれた。

「迎えにきたんだけど……」

一様、笑顔を作る。

「まだ、ここにいて」

「はぁ……」

と言ってると、ドアが開いた。そこから出てきたのはピンク髪の細身の男の人だった。

「あ、風李の」

会釈をする。僕も女の子も中に入るように言われて中に入る。女の子は少し不貞腐れて。

「兄さんは寝てしまった」

と、聞いてので叩き起こそうとしたが、大丈夫と言われてしまったのでお言葉に甘えた

女の子は僕と距離を置いて本を読んでいる。

風李のお友達の方は、気まずそうに

「すみません、人見知りが激しくて。小学校でも上手くいってないみたいで」

女の子は見向きもしない。

「いじめ、られてるらしいんですけど、証拠もないし本人はされてないって言うものだから、こちらもどうしようもないというか」

小声で話す話を聞いた。

 外は雨が降り始めていた。

 兄さんのお友達はソファーでうたた寝をしてしまったので、俺はどうしたものかと流れっぱなしのテレビを見ていた。

 すると、女の子はムスッとした顔をして僕を見ていた。

「な、なんでしょうか?」

つい、小学生相手に敬語になってしまう。

「現実に戻そうとしないであげてよ」

小学生が言うようなセリフではないと思った。

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