第26話 海
中学校は三校が統合した地元の中学に通った。元々、兄さんはその中学に通っていたので先輩から声をかけられることもあった。
その頃からメガネをかけ始めた。兄と比較されることが多くウンザリしていた。
部活には入らないで、家の手伝いか英語の勉強をしていた。ただ、こうやって勉強しているだけでも、父が喜んでいるんだと思っていた。
英語という言語にはまるで愛されているかのようにどんどん引き込まれた。それは僕自身が英語に対して素直に好きだと言える人間だったからだとも思う。勿論、国語や数学といった他の教科も好きだけど、英語の面白さに僕は心を奪われていった。
「ねぇ、今度の週末どこか出かけない?」
母からの誘い。
「どこに行くの?」
「風李、サッカー部の試合があるでしょ?応援に行こうかって言ったら大丈夫だからって言われちゃってね。その間だけだけど、たまには将次と出かけてみるのも悪くはないと思ったのよ」
素直になればいいのになと内心思っていたが、こくりと頷いた。
「行きたいところある?」
「……海行ってみたい」
「あら、そんなこと言うの珍しいわね。もう寒いかもしれないけど……じゃあ、決まり」
母は嬉しかったのかもしれない。僕を誘ったこともそうだけれど。きっと、母なりに僕との時間を大切にしようとしてくれているのが分かった。
車で兄の試合会場まで連れていった後、母はそのまま僕を乗せて海に向かって車を走らせた。
途中で美味しそうなアイス屋を見つけて食べた。空は晴れていて、風は向いていなかった。
「チョコ味が好きなの?」
母が俺のアイスを見ながらバニラ味のアイスを口に運んでいた。
「甘いから。チョコ味はアイスなら好き」
母は
「そっかー、知らなかったな……」
と、寂しそうに言ってアイスを食べていた。
秋後半の海辺はすこ寒かった。観光客もいない穴場の海辺。
「どうして海に行きたかったの?」
母がなんとも言えない顔をして聞いた。
「ハワイの海の方が人魚がいそうだね」
「人魚に会いたかったの?」
母は可愛らしく思ったのかクスッと笑って言った。けれど
「お父さんが気に入ってよく行った国は海が見えるところが多かった。海が好きだったの?」
そういうと、切なそうに笑って
「そうね……、プロポーズ、海でしてくれたな」
寂しいのか、何を言えばいいのか分からなくなったのか母は何も言わなくなったので
「帰ろう」
と言って車に乗り込んだ。
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