第4話 けもの道と登山道と


「はぁ、はぁ……いや、意気上がるの早すぎでしょっ」


 けもの道に入って、早10分。僕はすでに、息が上がった状態でけもの道を歩いていた。

 けもの道は足元が悪いのも大変だが、それ以上に道が細く気を遣うことが多い。足元が踏み固められているとはいえ、普段通るのはイノシシやシカである。人間の足の裏と比較すると微妙に小さいため、一歩踏み外すとフカフカの腐葉土だったり、ただの木の根。低木や足元の草木はなくなっているが、丁度顔のあたりに来るサイズの草木は残っている。そのため、足元だけではなく、上にも注意しないといけないのが想像以上にめんどくさい。


「まっ、これが楽しみでもあるんだけどな」


 そう、けもの道を歩くのは大変な一方で、自然を満喫できるという意味で非常に楽しい。ただ、注意しないといけないのは一歩間違えると遭難してしまうという事。獣がどこに向かっているのか?を考えながら、しっかりと歩かないといけない。


 しばらく歩くと、獣道の分岐に出た。


「道が三方向に分岐しているが、今から向かうべき山の方角は東だから………正面に進むか、左の道だよな」


 正面に進んでも、左に行ってもどちらにしても目的の山にたどり着けるとは思うが……今回向かうべき道は決まっている。


「事前に調査した時の話だと、この分岐を左に進むと登山道があるから、そっちに行くか」


 事前に、地元の猟師にアポを取って道の確認を行っておいた。その際に、この分岐に関しては説明を受けていたのだ。

 まっすぐ進むと、険しい山道を歩きながら最終的には崖に行き着くらしい。もともとは崖ではなかったみたいなんだが、土砂崩れが起こって崖になってしまったらしい。


「崖というか、土砂崩れが起こってそれを認知しているのなら早く修繕してほしいと思うんだけどなぁ。登山道でも、ハイキングコースでもよく似たようなことがあるもんなぁ」


 問題があることを認知していても、なかなか改善されないこと。これは、民主主義の現在では仕方ないともいえる。そりゃ、数百人よりも数千人の便利や安全を保障したほうがいいからね。

 とはいえ、こうした問題を放置し続けた影響で登山やハイキングが困難になっている場所や通行止めの影響で登れない山だってある。一人のアウトドア好きとしては、そうした問題を解決してもらえればなと思う。


「まっ、適当に歩いていきますかね」


 登山道に向けて、歩みを進めていく。途中で、梅の花や遅咲きの桜。ツツジなどのきれいな花々を楽しみながら歩いていく。

 きれいな花が一面に咲いている状況もいいと思うが、こうしてありのままの自然も好きだ。特に、まばらに咲いている梅の花を見るのが好きだ。床一面の花々や、手入れされてみられることが前提の庭園の花々も勿論好きだ。でも、やはり人工物って感じがしてなんだかなぁ………となる。


「お、シャクナゲまで咲いてるじゃん。ピンク色でそこそこ大きいから見栄えもよくて、結構好きなんだよなぁ」


 こうして歩いていると、種々様々な花や野草を発見できる。正直、半分以上自分では見分けがつかないのが本音。でも、名前がわからなくても、好きか嫌いか。単純に、その観点だけ持って楽しめればいいと思う。


「おっ、道の先が開けてきたな」


 けもの道はその特徴から、登山道などとは違って道の先が閉ざされている。登山道などでは、道の先に目を向ければ幾分か先まで光が差し込んでうまいこと先が見える。でも、光が差し込まず背の高い草木が残っているけもの道では、先々まで道を見ることができないのだ。


「んー、ということは登山道が近いのか。それとも、尾根とか道があるのか?そこまで詳細に道を聞いていなかったからなぁ」


 何はともあれ、先が見えるようになったのはいい傾向だ。道を間違えているとは思ってなかったが、もう結構な時間このけもの道を歩いているからな。

 分岐を曲がってからまっすぐとだけしか聞いていなかったから、すぐだと思ったけど。実際のところ、分岐も何もないからこのまま歩けば登山道には出るとは思う。


「っと、考えていればなんとやら......だな。道が出てきた」


 こうしてみると、登山道とけもの道は明らかに違うな。登山道は道がしっかり踏み固められているし、道が荒れていない。何より、何人もの人が歩いているからか、草木が生えてなくてとても歩きやすい。


「さすが登山道だ。歩いていて、足への負担が少ない」


 登山道では、足元がしっかりしているし木の根っこも少ない。ところどころ岩が出ていたり、砂利で滑ってしまうところもある。それでも、けもの道を歩くよりは数十倍楽だったりする。


「というか、もうこんな時間か。ちょっとだけ休憩したいけど......」


 時刻はすでに9:45を回っていた。けもの道を結構な距離歩いていたけど、すでに6km近く歩いているはずだ。時間と距離が多いからか、それとも運動不足だからなのか。自分の想像より疲労が蓄積しているみたいだ。


「手ごろな休憩場所があれば、そこで休憩したいんだけど。登山道にはベンチが整備されてたりするけど、確かこの道にはなかったはず。となれば、適当な岩場で休憩するしかないか」


 歩いていると、左右に座れそうな大きな岩や倒木がいくつか確認できた。この先の道で、ちょうどよさそうな岩とか倒木を見つけて休めば丁度いいだろうな。


「………………ううん、なかなかないなぁ」


 休みたいけど、いい場所がなくて休憩できない。これは負のスパイラルに入ってしまう原因になりうる。何より、ペース低下が確認できている今、早め早めの休息が必要だ。


「仕方ない、休憩するか」


 折り畳み式の座布団を広げ、道の片隅で休憩をとることにした。バテル前に休んでおかないとね。

 ちょっと汚れるのが気になるが、この際仕方ないだろうな......


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