アルカナ・地図・導き 3
久魯川市観光マップについて、引き続き開発を進めた。
園原さんの手助けもあり、なんとか金曜の公開に間に合わせられる道筋が見えてきたのだが、どうもわたしは悪魔に魅入られているようだ。
木曜日の午後になってとんでもない不具合が見つかり、それを直さなければサイトが使い物にならないことに気づいたのだ。
しかし、園原さんは出張に出てしまい、他のエンジニアも別件で忙しそうだ。
わたしは途方にくれながら、井澤さんに電話をした。
園原さんには報告だけしたが、まずは自分で井澤さんに相談してみようと思ったのだ。
「はい、井澤です」
「お世話なります。柚木です」
「なんでしょう?」
井澤さんの声は、心臓が凍りつきそうなほど冷たく感じた。
「あ、明日12時のサイト公開のことなんですが……」
「ええ。もちろん、間に合うんでしょうね?」
「それが、弊社の都合で恐縮ですが、不具合が見つかりまして……」
「だからなんですかッ! 徹夜でなんとかしてくださいよ! 私だって、市から色々と言われているんです! しっかりやってください!」
わたしは縮こまってしまい、なにも言えなかった。
夜の7時になっても、不具合が直る見込みはなかった。
他のメンバーに助けを求めようにも、いきなりの話で分担するのも難しかった。
そのとき、須藤さんがやってきて、心配そうに言った。
「そろそろ帰るけど、なにかありましたか?」
やわらかな、いたわる感じがじわりと伝わってきた。
「ありがとうございます。観光マップの開発で、不具合が解決できなくて。もう、徹夜コースです。それでも、明日12時に間に合うかわかりませんが……」
わたしはそこまで言って、少し後悔した。
須藤さんに言っても困らせてしまうだけで、どうしようもない。
事実、須藤さんは眉根を寄せている。
わたしは言った。
「すみません。話を聞いてくれただけでも、うれしいです。あとはなんとかしますんで」
「そうですか。よかったら、お力になれるかわかりませんが、困っていることを教えていただけませんか?」
「え? 須藤さんに……?」
そのとき、ふと凜都さんの顔が浮かんだ。
――きみは迷いの中、立ち止まっている。仲間に頼るべきだ。そのときが来たら、必ず迷いを打ち明けるんだ。
その言葉を思いだした。
そこでわたしは、自分の行動をおかしく思いながら、プログラ厶のソースコードを画面に表示し、説明をはじめた。
やがて、須藤さんは言った。
「フレームワークの利用方法に少し無理があります。それに、似たような処理が重複していて見通しが悪く、それがバグの温床になっていますね。これなら、30分あれば書き直せます」
わたしは自分の耳が信じられなかった。
「え? 須藤さんが、書き直すんですか? できるんですか?」
「……ええ。できます。そこですみませんが。私のPCには開発ツールなどもないので、柚木さんのPC、使わせてもらっていいですか?」
須藤さんは古いコードを消し、猛スピードで書き換え、つなぎあわせ、20分と少し経ったころ、完全に動作するプログラムを作りあげた。
園原さんよりも、わたしの知っているどんなエンジニアよりも明らかに凄腕だった。
須藤さんは寂しそうに、とつとつと話しはじめた。
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