アルカナ・地図・導き 2

 土曜日の夜、ひさしぶりにタロットカードを引っぱりだした。

 母方の祖母が占い師で、手相鑑定や易占をやっていた。そんな祖母に、すこしだけタロットカードを教えてもらったのだ。



 専用の黒い袋に入った、22枚の大アルカナと呼ばれるカードを取りだし、順番に見ていく。

 ほんとうは小アルカナを含めると78枚あるのだが、とても使いこなせないから、22枚のみでやる。

 左手にカードの束を持ち、1枚1枚にあいさつをするように右手でめくってゆく。

 カードにはそれぞれ、旅人風の青年や魔術師、巫女みたいな人や法皇など、色々な人物が描かれている。

 こうして絵柄を眺めると、なんとなく心が落ちつく。


 それからカードの束を紫色のマットの上に置き、両手で円を描くようにシャッフルする。

 1枚を選んでめくると、それは18番目の『月』のカードだった。

 動物たちが、夜空に光る月を見あげ、とまどっている様子の絵柄だった。

 そうだ、わたしはとまどっている。

 自分が何者かわからずに、迷っている。

 昔のように祖母と話をしたかったが、祖母はすでに雲の上だ。

 祖母の占いはすこし変わっていた。未来を予知するとか、ひたすら悩みを聞くとか、そういう感じではなかった。

 いわば、その人の本来の姿、本来の居場所を一緒に探すような、そんなやりかたをしていたように思う。

 そして、そういう占い師はなかなかいないし、もしかしたら、祖母は占い師ですらないのかも知れない。

 でも、祖母のように、人の役に立てる生き方ができたら素敵だとは思う。

 そのとき、なんとなくわたしはスマートフォンでポータルサイトを開き、占い師を検索した。

 すると、いくつか気になる候補が出てきた。

 『男性のタロットカード占師の凜都です。仕事や恋愛など、オールラウンドに対応できます』

 こうして、翌日わたしはその店に向かった。



   *   *



 わたしは占い師の青年――凜都さんにうながされ、対面の椅子に座った。

 ポータルサイトの説明で男性の占い師だとは知っていたが、こんな若そうな、チャラそうな人だとは思わなかった。

 なにか、だまされているような気もした。

 でも、凜都さんがタロットカードを取り扱う手つきは、かなり手慣れているように見えた。


「で、なんの相談かな」


 そこでわたしは、


「仕事について、占ってください」


 凛都さんは、わかったよ、と言って、いくつか質問をしてきた。

 やがて凜都さんは目を閉じ、右手のこぶしを額にあて、なにかをつぶやいてから、カードのシャッフルをはじめた。

 やがて、3枚のカードが黒いマットに裏向きに並んだ。三角形を描くような配置だ。

 凜都さんはそれを表に開いていった。

 1枚目は、女の剣士が目隠しをした絵柄だった。


「きみは、ひとりの世界に閉じこもろうとした。しかし、それは自分を追いつめる結果に向かう」


 2枚目には、昨夜にわたしが引いたのと同じ、『月』のカードがあった。

 3枚目には『魔術師』のカードが逆さになっていた。

 凜都さんは言った。


「きみは迷いの中、立ち止まっている。仲間に頼るべきだ。そのときが来たら、必ず迷いを打ち明けるんだ。すると、あらたな道が開けるだろう。ところで、きみはたぶん、エンパスだね。人の心を受け取ってしまう」

「え? どうしてわかるんですか?」

「心を、もっとコントロールしなけりゃならない。受け取るということは、周りからも、見えてしまうということだから」

「できないです。そんな、器用なこと……。それに、うんざりしてるんです。自分の体質に」

「そうかい。でも、だからこそ、できることが、あると思うよ」


 そのときふと、凜都さんの左手首に黒いリストバンドが巻かれているのに気がついた。

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