第30話 接敵3

喉が渇いた。

重い体を引きずるように

ワインを求める。


華やかな場所に居たのは

出会った時のごくわずかで

あとはずっと彼の為だけに

地道な犯罪活動をしていた。

同じワインのはずなのに

味も香りも別物に感じる。

とりあえず喉を潤し

彼を探す為にPCを起動しようとし

眉をひそめる。


PCにログイン出来ない?

アカウントもパスワードも

危険回避の為、記憶はさせていない。

それが仇になったのかもしれない。

壊れてしまったのかもしれないが

中身を見られる訳にもいけないので

修理にも出せない。


エリカはしかたなくスマホで

SNSを確認しようとした。

SNSのDMが何通か来ている。

そしてメールアプリには沢山の

スパムに紛れて私宛のメールが

届いていた。


短いメッセージとURLが残されている。

《我が主の怒りを知れ》

スマホにもセキュリティ対策を施して

あるのでURLにアクセスしても大丈夫

だろうとタップした。

そして先ほどのワインの酔いは

すべて吹き飛ぶことになる。


「なぜ?」


私は誰を敵にしてしまったのだろう。


それは日本の匿名掲示板であった。

そこにはエリカ・チャンの実名、偽名、

犯罪歴、住所など詳細な個人情報と

SNSアカウント、顔写真まで晒されていた。

そして投資詐欺関係者である事の注意喚起

がなされていたのである。


SNSには事実確認をしようとするDMが

騙した相手から来ている様であった。


彼女のスマホは確認を終えたのを

待っていたように淡い虹彩に包まれた。

特に操作に違和感はない。

何かのいたずらだろうか。。。

エリカは早急に身支度をしなければと

動き始める。

国際手配されればいずれ捕まるだろう。

どこかへ逃げなければならない。

名前を変えて別人として生きてゆこう。

幸い、ダニエルに送金する予定の資金が

それなりに残っているはず。


そして逃亡した彼女はすぐに

知る事になるだろう。

口座の残金が0になっている事を。


「エリカ・チャンだな?」

警官が蹲っている塊に問いかける。

何度目かの問いかけの後、

彼女はゆっくりと顔を上げた。

その瞳にはもう色は無く、

悪臭とよくわからない液体にまみれた

ただ生きているだけの塊の様だった。

彼女は光彦の希望によって

この世からさよならする事だけは

許されたのであった。

アリルの報復が灯火を傷付けた者の

この世からの消去である事を考えれば

確かに彼の希望にそった結果なのだろう。


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