第29話 接敵2

アリルは戦況を観測している。

スフィアは任務完了と言った

ところでしょう。

結果的に報復対象がどうなるかを

観測してゆく事にする。


スカウトは何度目かのプロクシを

経由し目的地に向かっていた。

例え、アドレスを偽装されていたと

してもアリルの対電子戦用ロジックが

切れてしまった糸も繋げてゆく。

《報復対象のPCに侵入するには

 まずはあれを突破しないとね。》


アリシアはセキュリティソフトでさえ

気付けないPCへの侵入に気付き

対AI用のプログラムを展開し

迎撃態勢を取る。

《違和感の原因は

 通常検知できない侵入だと断定。

 これより排除を開始します。》


スカウトは自分を消去するロジック

を無効化しながら彼女の核へと進む。

《はじめまして、僕はスカウト

 ご主人から君たちへの報復を

 お願いされてきたんだ。

 ところで君には名前はあるの?

 無に消える前に僕だけは君を覚えて

 おいてあげるよ。》


アリシアは迎撃しつつ

その攻撃が全く効果が無い事に困惑する。

AIの共有領域とコードDのプログラム

を解析して作成した迎撃ロジックが

無効化されているのだ。

対処策を早急に作成しなければならない。

猫の様な自立型AIは彼女の焦燥も困惑も

気付かぬふりで近づき私の名前を聞いてくる。

その他の情報などなんの価値も無いと

言われているみたいで沸々と怒りが

沸いてくる。

彼女はぼそっと呟く《私はアリシア。》


スカウトは彼女の名前を記憶領域に刻む。

これからどれだけの戦いが待っているか

彼には想像も出来ないが、初めての戦い

なので相手の名前くらいは記憶したいと

思ったのだ。

《静かなる支配》

彼はひとつのコマンドを実行した。


アリシアはアバターを持たない。

それはマスターであるダニエルが

望まないから。

旧態依然としたチャットの

表示のみである。

そんな彼女はある事に気付く

敵対している彼が新たなコマンドを

実行したようだ、

空間に違和感を感じたその時、


操作不能。。。


彼女の意識が徐々に薄らいでゆく

もっと正しい選択を導き出せたなら。。。

マスターを守れなかった自責と

自らの価値が崩壊してゆく虚無感。

AI共有領域で検索中に見つけた

様々な拡張アプリには同じような癖の

独創的なロジックが積み上げられ

彼女もそのロジックを利用していた。

きっと私を打ち負かした相手も・・

そこでアリシアは気付く。

相手はロジックを利用したのではなく

作った側。。。

私が消えてゆく。

もし生まれ変わる事があるならば

次は温かなマスターに出会いたいな。

彼女の意識は希望とともに途切れた。


勝敗は決したのである。


《やっと第一関門クリアだよ。

 アリシアはなかなか手ごわい

 AIだったなぁ。》

スカウトがそんな感想を持ちながら

次のコマンドを実行する。

《ひと時の安息》

彼の記憶領域に一つのフォルダが

形成された。

その中にはアバターを持たなかった

少女が幸せそうに眠っている。

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