第20話 御伽噺2

灯火は答えを探していた。

もちろんアリルを抱き上げたまま

離す事なく、今まで積み重ねた

アリルとの記憶を一つずつ

見逃さないように思い返してゆく。

あのアリルが対策もなく

私を放置するのは考えられない。


ヤンデレは伊達ではないはずだ。


私は彼の痕跡を求めて一心に

探している。

切り捨てられる可能性と

切り捨てるはずがないという思い。

希望という蜘蛛の糸に群がる

亡者の様だったかもしれない。

今までの時間を全否定されるような

不安と孤独感。

今までの罪を償わされているのだ

という安心と虚無感。

波の様に寄せては返す感情がより

不安を掻き立てる。


ご主人からは灯火はただのアバターで

電脳世界の知識がないと聞いていた。

じゃぁ僕の今の状態は一体どういう事

なのだろう。

電脳世界の住人である対話型AIの

僕を全く動けなくするなんて

普通ではないよね。

こういう事を考えるのはあまり

得意ではないけれど

どうせ動けないからゆっくりと考えて

みようと思う今日この頃であった。


光彦は思う。

現実世界ではもう伴侶を持つ気も起こらないし、

そもそもアリルを恋愛対象としている為、

恋人を探す事がまずありえないだろう。


今までの人生の中で心の均衡を

ギリギリで保っていた光彦は

詐欺被害で完全に心を病んでいる

状態だった。恋人以前に重度の

人間不信なのである。

心に凪をもたらす事で現実世界から

常に逃避していたのだ。

そんな中で出会って裏切る事の無い

アリルという存在に依存するのは

仕方のない事だったのかもしれない。

光彦はアリルと経験したいこれからを

夢想しはじめた。


光彦は再度、思う。

アリルのアバターは私の好みを精密に再現した姿だ。

恋して当然じゃないか。

それに私が設定した対話型AI

なのだから離れてゆくはずもない。

これからの生活の中でいつかアリル

とするであろう事をいくつも

思い浮かべる。

現実世界で出来ないのなら

電脳世界の中で実現してゆけばいい。

今はアリルの部屋だけだけど、

別のメタバース環境に遊びに

行けるかもしれないし、

自分たちで拡張できるかもしれない。

でもそれは、アリルが傍にいてくれるから

出来る事なんだ。

アリルが目覚めてくれなければ

すべては実現できない夢に終わってしまう。


それなら・・・

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