第4話
新山君は家に入りすぐに着替えて出てきた。健康優良児を絵に描いたような格好から、黒いインナーにライトなジャケットを羽織り、デニムパンツを履いている。なんかお洒落。
彼は坂本さんのことなどお構いなく真っ直ぐ私に近づいてきた。そして口を開く。
「待たせたな。県警がこの体たらくだから手間取った」
えっと坂本さんに聴こえてます。そっと確かめると当の坂本さんは苦笑交じりで私に手を振っていた。なんだか申し訳なくて、小さく頭を下げすぐに新山君と向かい合う。
当然視線が合うわけで、私はすぐに目を逸らした。
「んじゃ行くぞ。で、どこに行くんだ」
新山君はどこまでもマイペースで私は口ごもりそうになった。けれどウインドウショッピングに行く、という事実は隠すほどのものじゃない。
素直に告げると新山君は頷き言った。
「そんな気はしてた。じゃあ行こう」
あれ、やっぱり一緒に行く流れなんですか。
ちょっとだけ呆け戸惑っていると、
「なんだ約束してたんじゃないのか」
坂本さんが笑いをこらえるよう一言感想を述べていた。
新山君に付き添うよう、私はまた駅までの道を歩いている。
おかしいな、今日は一人で出かける段取りしてたのに。
新山君の歩く速度は早くて、私は時々小走りにならないといけなかった。離れる度繰り返していると、新山君がそれに気づいた。
「すまん。もうちょっとゆっくりか」
「あ、うん。そうしてくれると嬉しい」
「そうだな」
と新山君はゆっくり歩いてくれるようになった。お陰様で駅まで二人、肩を並べてというわけにはいかないけれど、揃ってたどり着けた。二人して駅のホーム、ベンチに並んで腰掛ける。
でもおかしいな、私は今日一人でお出かけ……。
そんな思考を遮るよう新山君が口を開いた。
「美原、坂本は駐在じゃない」
え? と全く予想外の台詞に驚いてしまう。警察の人では……。不思議に思って新山君の顔を確かめると、彼は真っ直ぐ前を見たままだった。
「坂本は県警の人間で刑事だ」
「そうなんだ」
何が違うのかとっさには分からなかったけれど、少なくとも交番の人ではない。それぐらいは分かった。
「理由は知らんが最近こっちに来た。特に親しくなる必要はないし、出来るだけ関わらないようにしてやってくれ」
「どうして?」
新山君はあんなに絡んで、ではなく親しそうだったのに。
「ややこしい話だから知らない方がいい。俺だって偶然知った」
「じゃあどうして、新山君はさっき坂本さん訪ねたの? 通報すれば引きずらなくてよかったのに」
それと私がもしかしたら埋めるのでは、と心配する必要もなかった。
率直な問いかけに、
「知らん土地で知り合いもいない。多少声ぐらいかけてやらんと警察官なんてやってられん。そりゃ朝から迷惑だったろうさ、刑事だし。けどあいつはここに馴染むことはないだろう。迷惑ついでになんか声かけたくなっただけだよ」
新山君は真摯に応じてくれた。彼なりに気遣っていたということだ。私はもしかしたら口封じか口止め料をもらえるかも、と考えた自分が恥ずかしくて仕方ない。
「そっか、坂本さんすぐいなくなるんだ」
恥ずかしさを紛らわすよう応じると、
「仕事が片付いたらそうなる。どっちがいいかって言えば、片付いた方がいい」
新山君は少し寂しげな顔をして、駅のホームから見える景色をじっと眺めていた。田園は建物に遮られているけれど、まるでその向こうを見つめるように。
私もつられ視線を真っ直ぐ向ける。
構内の放送が聴こえ列車が入ってくる。
二人して立ち上がり市内中心部へと向かうその車両へと乗車した。
まだ朝早く、人の少ない車両で二人寄り添うようそっと座席に腰を下ろして。
電車が動き出す。
遮っていた建物が過ぎ去り私達の町が広く見渡せた。
その景色は確かに田舎町だけれど、人が息づく姿と自然感じさせるには充分なものだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます