第5話
七時に家を出たのに、八時に電車に乗って私達はショッピングモールに向かっていた。約三十分の行程で九時前にはついてしまう。専門店の開店時間は十時だけれど、それまではモール直営のスペースを見ればいい。
新山君とは特に会話が弾むわけではなかったけれど、不思議と苦痛ではなかった。なんでだろう?
開店の少し前について、ここで新山君に目的を尋ねられたので応じる。
「えっとウインドウショッピングになると思う」
「服だよな」
「うん」
「ならよかった」
と新山君はほんの少しほっとしているようだった。
それがなんなのかはモールに入ってすぐに分かった。
一階は食料品売り場。二階へエスカレーターで昇ると、一目瞭然な光景が広がっている。
女性ものの下着売り場が堂々とスペースを占めていて、私ですら固まってしまった。
普段ならなんとも思わないけれど今日は男の子の友達……クラスメイトと一緒に来ているのだ。
どうしよう動けない。
すると、
「あっちだな。ここに用はないだろ」
と新山君は物凄く遠回りして婦人服売り場へと歩を進める。歩みが早い。さっき早いよって話したばかりなのに。でも分かるから私は何も言わずにおいた。
婦人服売り場はちょっと場違いでまだ少し早いように思えた。
新山君はすぐに気づいて私を下から上まで値踏みするよう見て取った。
「サイズが合わんな」
すみません、子供っぽくて。思わず口を尖らせそうになったけれど、
「子供服では幼過ぎる。婦人服は物による。やっぱり専門店か」
すぐにフォローしてくれて、それから、
「年はいずれ取るから最後の子供服でも見たらどうだ?」
とお父さんみたいなことを言った。フォローが台無しです。
「好きに見るもん……別に新山君に一緒に見て欲しいってお願いしてない」
怒ってついとそっぽを向く。それから視線を戻すと新山君は平然としていた。なんだか意味も分からないまま不安になって、
「お願いしてない……よね?」
と確認してしまう。まともに話すの今日ぐらいのはずだけど、もしかしたら図書委員で何か話したかもしれない。
戸惑う私を見た新山君は、
「お願いはされてないな。でもまあそれはどうでもいい。テナントは十時だろ?」
「そうだけど」
「なら時間を潰すしかない。歩くか」
「はい……」
時間潰しに、私は最後になるかもしれない子供服売り場を選んだ。新山君は私に合いそうなものを探しているのか、いくつか手に取って、
「ギリギリいけるか。いや、学校で引かれる可能性も否定出来ない」
と謎に物色している。悩んでくれるのは喜ぶべきなのかな。
私がそれに頭を悩ませていると十時が訪れ二人で専門店へと向かった。
なぜ二人なのかは未だに分からないけれど。
――一通り見て回った後、私達はお昼をフードコートですませることにした。
驚くことに私は買い物を一つすませている。少し大人びた服はお高くて、少し可愛らしいものが気に入った。ギリギリ手が届く範囲だけど諦めようと思っていた。また今度お母さんと来ればいいと考えたから。
だけど半分新山君が出してくれた。
困惑して断ったけれど、
「いや、割り勘」
という新山君の謎理論で押し切られた。
何も割れていないんだけど……。
二人でハンバーガーを頬張り、私は不思議で仕方がなかった。
向かい合いまじまじ見つめていると当然視線が合う。
私は、逸らすこともなくじっと見つめていた。
新山君も逸らすことなくじっと見つめている。
見つめ合っている。
慌ててハンバーガーに夢中になると、私の方が早く食べ終えてしまった。
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