第5話

水野

「田代君、せっかくだから、タエちゃんの恋バナを聞かせてあげよう。あれは、中学1年の時だったかな……彼女は陸上部で とにかく頑張ってたね。何せ100メートルを12秒フラットで走り抜けてたからね。でも、その頑張りには恋の駆け引きが有ったわけよ。陸上部の顧問の若い先生に惚れてた彼女はさ、『12秒を切ったらデートしてやる!』という先生の言葉を信じてさ、ある日12秒を切るわけさ。」


田代

「そ……そんな出来事が有ったんですね。」


黒川「おいおい!誰が『12秒切ったらデートしてやる!』って言っただと!あれはなあ、練習で絞られた時にな、私の方から『おい!テメエ!12秒切って吠え面かかせてやるからな!その時は俺とデートしろ!』って啖呵を切ったんだ!状況説明が全く違うだろ!」


田代

「ああ、それなら想像できます、社長の言いそうな事ですもんね。」


黒川「その話には続きがあってな、私が選考会で11秒56を叩き出したものだから、その先生は泣く泣く俺とデートしたって訳さ。アイスクリームを山ほど頼んでな、何かと散財させたからな、デートなんだか、カツアゲなんだか分かりゃあしないよ。ハッハッハ………。」


黒川

「この際だから、タカ坊の話も聞かせてやるよ。タカ坊にも心を寄せる意中の女子がいてな、じれったいからさ、ある日その女子とタカ坊二人を縛って校庭の鉄棒に結わえておいたのさ。まあその女子も怒ってたね。『どうせ一緒に縛るならカッコいい男子にしてくれ!』ってな。後でバレて俺が大目玉食らったのは本当だがな。笑」


田代

「社長の状況説明……想像できます、その女子は怒り、タカ坊は、ヤられっぱなし……という処でしょうか?」


黒川

「うん、でもソコだけが違うんだって。その女子が今のタカぼうの奥さんだよ。何でも、『この男子を守らなければ!』という母性が働いたらしいよ。」


田代

「逆に良い話ではないですか?それは、それで。」


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