第35話 15分で70階層!


 ダンジョンアトラクションタワーイベント〈リビングデッドオーバーライド〉が開始した。


 100名の挑戦者達は、うおおおぉおおおと、螺旋階段へ突入!

 俺は最後尾から、挑戦者もとい迷宮探索者たちを眺めていた。



 様々な探索者がいた。



 屈強、剛腕、頑強、強腱、強固、堅牢、脳筋、残忍。


 負けず嫌い、不条理、闊達、卑怯、狡猾、優雅、可憐。


 麗しげ、機敏、俊敏、鋭敏、明晰、明朗、博識、優美。


 疾風、強烈、猛烈、激烈、凄絶、壮絶、鮮烈、脱力……。


 

 皆、なんらかの特色のある探索者達が、螺旋階段を駆け上がっていく。


 キャラが立っている。


 その中で俺はおじさんだった。


 おじさんなので、楽をして行くことにした。


 俺は鉈をイーグルハチェットに成長させ、起動。


〈体重を軽くするジェム〉を使用。


 両腕にイーグルハチェットを使用し、〈両翼モード〉となる。

 

 鉈がひとつだけなんて、誰が言った?


 俺の武器である鉈と金槌は、自在に変化できる他にも、左右のバリエーションがあるのだ。



「イーグルハチェット、両翼飛翔形態」

 


 俺は左右の腕に、翼めいた巨大な鉈をなびかせる。

〈鉈〉とはいうが、実際の形状は、大きな翼そのものだ。


 俺は最後尾から、飛翔。


 飛翔と言っても飛べるわけじゃない。

 ただ、ものすごく軽く跳躍ができるだけだ。


 

「すまんな。軽くしてある」

『アイエエ?』


 最後尾のニンジャめいた人の肩を足で踏み、俺は飛ぶ。

 とんとん、とんとん、と、螺旋階段を登る奴らの肩を伝って、登っていく。


『てめぇこら、きたねっぞ?!』

『やんのかコラァ?!』

『もぎとるぞおらぁ!』

『カスガァ?!』


 雑魚が何か言っているが無視。

 幸いこのエリアは螺旋階段だ。


 螺旋階段の一階部分から、二階部分へ到達した頃。

 先頭集団が戦闘を開始したようだ。


『オークの小隊がきたぞ!』

『鉄球が、螺旋階段を転がり落ちてくる?!』


 などなど、声が飛んでくる。


「でかいな」

 

 階段を転がり落ちる鉄球は、2メートルほどもあった。

 まともに喰らえば致命傷だろう。

 前方集団が鉄球をどうにか回避する。


 鉄球は俺の元に来た。

 瞬時にハチェットをブーストハンマーに変える。


「オラァ!!」


 ハンマーの一撃で、転がり落ちる鉄球は砕け散った。

 俺のおかげで死傷者はでなかったようだ。


 周囲の探索者が奇妙なものを見る目で俺をみていた。


『なんだ、あんた。人間か?』


「気にすんな。それよりこのノリが続くのか? めんどくせえぜ」


『いや、でも賞金は300万エンだろ?』


「さくっとぶちのめしてえな」


 俺は飛ぶことを考える。

 いや、このイーグルハチェットは飛翔能力はなくちょっと軽くなって浮ける程度のものなのだが……。


「これ螺旋階段だよな? ってことは内部は吹き抜けだよな?」


『なにをする気だ? おい。戻るのか?』


「なんで気づかなかったんだろうな!」


 俺は一階を引き返し、スタート地点へ戻った。

 いじわるなタイプの探索者が俺をあざ笑う。


『あのおっさん。スタート地点に戻ったぜ?』

『バカが。けけけ。一人トチくるって脱落だな!』


 バカはてめーらだよ。

 俺はスタート地点で、ブーストハンマーを起動。


 雷轟神戦鎚ヘカトンケイル・トールハンマーの亜種の技。

 雷轟神磁気嵐ヘカトンケイル・レールストリームを起動する。


雷轟神磁気嵐ヘカトンケイル・レールストリーム


 ブーストハンマーがうなり、ごごごご、と、一階の地面を崩壊させていく。

 もってくれよ、地面。

 上空から、探索者達が俺を見下ろしていた。


『あいつは、何をやっているんだ?』

『ほっとけ。試合を投げ出したのさ』

『いや、違う。一階が崩壊しているぞ?』


 磁気嵐によって一階部分の床や壁が、ばりばりばりと、剥がれていく。


「溜まったな」


 俺の足元には膨大な磁力がある。


「射出するぜ!」


 重力に抗い、俺は跳んだ。

 磁気嵐と磁力を操作し、シュン! と上空へと飛翔したのだ。



 通常の空間ではできない技だが、このタワーが螺旋階段だから磁力を制御できた。

 跳ぶと同事に、俺はハンマーを両手イーグルハチェットに変更。


「届いてくれ! いけるとこまでいくぜ!」


 ひゅーん、と跳んで、飛び、俺は螺旋階段の70階部分に到達した。


 1階ごとにミッションがあり、階層をクリアすると鍵が空くらしいが……。


 んな面倒なことやってられるか。

 

「気流に乗って、いっきに70階層へ来たぜ!」


 俺は螺旋階段の70階で、ぽんぽんと埃を払う。


 階下には米粒になった雑魚どもが見えた。


『あの野郎!』

『ああいう輩は、先に死ぬんですよ』


 あまり悪口を言うものではないとも思ったが、そういうイチャモンをつけてくるから雑魚なんだよ。


「さて。いきなり70階層だな」


 俺は開始15分で70階層に到達していた。

 


 さらに両腕の鉈を戦闘モードに変更。


 右腕にイーグルハチェット、左腕にはリビングハチェットを持っている。


 ダブル鉈モードというやつだ。


 羽のような形状のイーグルハチェットは、近接の取り回し武器。〈生きている鉈〉リビングハチェットは、自動追尾の殺戮兵器となる。



 70階層の扉を開けると、無数の迷宮魔獣がいた。

 イーグルハチェットと、リビングハチェットが唸る。


 ひうんひうんひうんひうん!!!!

 キンキンキンンキンキンキンキンキン!!!!!


 ざしゅ!ざしゅ!

 どぶどぼぶしゅううううぅぅぅ!


「オークだがゴブリンだか、スケルトンだか巨大蜘蛛とかいるけど、こんなもんは家の裏で鍛えてきたんだよ」


 おまけにマナが全身に浸透している。

 女神がいうには魔力スポットだったので、疲れ知らずだ。


 31体の迷宮魔獣は瞬殺した。



「うおおおぉおお! 相変わらず圧倒的です! さっきは死ぬかと思いましたが!」


 撮影はメルルがしてくれていたようだ。

 テレビの撮影的には俺の活躍は面白みはないだろうが、ネットの反響は上場のようだった。






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