第34話 ダンジョンアトラクションタワー開幕


 ダンジョンアトラクションタワーとは、今年1月に都心にオープンした商業施設だ。


 階層は上に向かって100階。

 迷宮のダンジョン構造を、建築技術でまるごと再現したタワーだった。


『迷宮探索を日常に』


をコンセプトに、様々な市民がタワーに挑むことができるようになった。


 お手軽に迷宮探索(ダンジョン体験)を味わえる施設なのである。



 口コミは半年で爆発的に広がり、各界隈から多くの挑戦者がこのタワーに挑むようになっていた。

 

 今では定期的にネットで特集番組が組まれるほどだ。


 特集番組は『屍田踏彦の【お前を食い物にする】チャンネルがうがう』である。


 スポーツ選手や芸能人ばかりではない。セクシー女優や迷宮配信者、エロゲ声優など、様々な分野から人が集められ、タブーに切り込む番組として有名だった。



『今回のゲストは今をときめく声優インフルエンサー輝竜リコさんです。拍手!』



 スタジオではセクシー女優や毒舌配信者、プロ迷宮探索者などが壇上に並んで座っている。


 リコはスタジオに端っこでコメントをする係となっていた。

 だが表情には曇りがある。

 主催者の屍田踏彦が、収録前にリコに囁いたのだ。


『お前の彼氏は今回のアトラクションで脱落する。ネットの評価は爆下がりするだろう。俺の裁量一つで、お前らの人生が決まるんだ』


『どういう、ことですか?』

『わかれよ。枕だよ』


 つまり屍田は、リコを抱きたいということだった。


『私のことが好きなら、ちゃんと言ってください。付き合っている人はいますが、ちゃんと言ってくれたら、メッセのやりとりしたり、お友達から始めることは考えます』


『君は青いねえ。青い青い。出世の仕方が下手!そんなんじゃ業界はわたっていけないよ? 馬鹿な女だな。彼氏君が潰れるところをみれば、気も変わるだろうな!』


 どうやらリコは潰されてしまうらしい。

 リコはスタジオに座りながら反省した。


 自分の悪い癖だ。誠実さや人としての正しさを優先してしまう。


 スタジオでは視界の女性がリコにマイクを振った。


『今回のアトラクションタワーは過去最大規模、100人の猛者が100階層までいけるかのチャレンジとなります! イベント名はまだ秘密らしいんですけどねえ。そういうわけで、輝竜リコさん。今回はいったいどんなドラマが待ち受けていると思いますか?!』


 裏で枕をするとか、上手く渡るとかはできないにしても。

 この番組を干されても、配信があればご飯は食べていけるはずだ。

 だから仕事だけは、ちゃんとこなそう。


『はい。血湧き肉躍る、波乱のドラマが待ち受けていると思います。期待していきましょう!』


『血湧き肉躍る、ですか。さすがですねえ! では本番にまいりましょう!』 


 笑顔を浮かべる。嘘の笑顔じゃない。

 あの人に向けた笑顔だ。


(鬼神さん。がんばって!)


 鬼神を思うからこそ、リコの笑顔が心からのものとなり、視聴者を熱狂させることになるのだった。





 俺はダンジョンアトラクションタワーの控え室で、精神を集中していた。


「うわあ鬼神。怖い人いっぱいいるよ?」


 俺の周りでは妖精・白樺メルルがうろちょろ飛んでいる。


「あんましゃべんな。目立つだろ」

「皆、鬼神より若いねえ」


 俺は控え室の面々をみやる。


(どいつもこいつも粒ぞろいだな)


 100階層のタワーを100人の迷宮探索者が踏破するイベントだけあり、有名どころが揃っていた。


 控え室で俺は、特筆するべきプレイヤーをマークしておく。


 上半身裸でポーズを決めるマッチョの男は、A級探索者でボディビルダーの〈五里アキラ《ゴリ アキラ》〉。胸囲120センチの胸筋がびくびくと蠢く。


 全身に光るジェムを身につけた細身の男は、『俺か俺じゃないか』の発言で有名なホスト・光苔yasusi(以下面倒なので俺はヤスシと呼ぶ)。


 力士ながら探索者として出演するのは、爆発的張り手を武器にする爆乃海ばくのうみだ。


 有名女優と結婚した歌舞伎役者探索者・四代目・鴨川蟹蔵三世かもかわかにぞうさんせい

 三世がつくのは、最近エジプト王の血が発覚したかららしい。



 すさまじい面子だ。

 特にマークするべきは力士だろう。


 俺は常々思っているのだが、エドモ○ド本田とダル○ムが、リアルでやり合ったら、ダ○シムは一撃で死ぬ。


 補足をすると、このふたりは有名格闘ゲーム・ストリート○ァイターに出てくる登場人物でエドモン○本田は力士キャラ、ダ○シムはガリガリのヨガ使いだ。


 ガリガリが力士に勝てるわけがない。

 重さとはパワーそのものなのだ。

 なので俺は爆乃海を徹底的にマークする。



『控え室の方、時間が来ました。奥の方へどうぞ』



 そのとき俺の方にぶつかってくる奴がいた。

 世界総合格闘技王者ユ・ハンソンだ。


『ドコミテアルイテルンダ……。グゥ!?』


 だが俺の肩にぶつかったユ・ハンソンは、逆に吹き飛ばされてしまった。

 地面に尻餅をつく前に、俺は手を取り立たせる。


「大丈夫か? 国は違えど同じ選手だ。仲良くしよう」


 俺は心にもないことを言う。

 ユ・ハンソンの手を俺はぎゅっと握りしめた。


 ちなみに俺の握力は通常時80キロ、マナを増幅させれば300キロは超える。


「アンタハ……。ナンダ? コノオモサは?」

「いや。俺のサイズは普通だと思うが?」

「クビヲアラッテ、マッテイルガイイ」


 どうやら世界総合格闘技の覇者に目をつけられてしまった。


「お手柔らかに頼むよ」


 いざこざはあったが、ダンジョンでは全員が平等だ。


 100人の探索者達が廊下をくぐり、屍田踏彦の主催するダンジョンタワー一階、スタート地点ホールに集まっていく。 


 ホールは体育館のような広さだった。

 照明が目に眩しい。

 まさか俺が、こんな光輝くステージに立つ日が来るとはな。


「鬼神ぃ。まだスタートだよ?」

「お前、俺の心でも読んだのか?」

「顔に書いてあったよ? にへへ」


 メルルが俺の胸ポケットで、生意気なことを言った。


「今回は俺のクビのあたりにいろ」


 今日の俺のインナーはタートルネックだ。

 妖精メルルを首元にいれる。


「どうして?」

「アトラクションは激しい運動となる。胸を打ったらお前は潰れる」


「ふええ。やっぱ鬼神優しい」

「俺の首が斬られたら、お前も斬られるがな」

「やっぱひどい!」


 メルルとだべっているうちに、ダンジョン・アトラクションが開会される。



『始まりました。ダンジョンタワーアトラクションイベント。公募によりイベントタイトルが決定いたしました。

 その名も『屍を踏み越えて進む〈リビングデッドオーバーライド〉』。

 これより〈リビングデッドオーバーライド〉を開始します!


 リビングデッドオーバーライドか。

 趣味の悪いイベントだぜ。


 だが、未来のためにやってやる。

 俺は金槌と鉈を握りしめる。



『リビングデッドオーバーライド、開始します!』



 一階ホールでは100人の探索者がひしめき合う。怒号と熱気とともにタワーの100階を目指し駆け上がっていった。


――――――――――――――――――――――――

鬼神がマークした猛者を紹介


五里アキラ〈ゴリ アキラ〉

:ボディビル探索者。胸囲120センチ。男。


光苔yasusi〈ヤスシ〉

:ホスト探索者。キラキラしている。『俺か俺じゃないか』


爆乃海〈ばくのうみ〉

:力士探索者。前頭3枚目。


鴨川蟹蔵三世〈かもかわかにぞうさんせい〉

:歌舞伎役者探索者。エジプト王の血もあるようだ。


ユ・ハンソン

:世界総合格闘技王者。


――――――――――――――――――――――――――

色々と怒られが発生するかもしれないので、見せ場はつくりますw









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