第36話 鬼神クレイジーダイブ


 鬼神の快進撃は、放送からカットされた。

 あまりに簡単に攻略されると、挑戦者の苦悶の表情が映らないからだ。


『誰だあいつは?』

『放送の予定にないぞ?』

『いきなり70階に跳ぶなんて、趣旨に反しているよ?』


 もっとも怒りを露わににしたのは主催者である屍田踏彦だった。


「あいつは、どこまで俺をコケにするんだ? 鬼竜リコが意中になってるってだけで許せないってのによぉ……」


『屍田さん。どこに行くんです?』


 スタジオ収録の合間に、屍田は飛び出していく。


「いや。スパイスを増やそうと思ってね」


 屍田はダンジョンアトラクションの管理ルームに向かった。

 手に持っているのはマスターキーだ。


 このマスターキーがあれば、関係者が知らないギミックを発動することができる。


「いきなり70階なんてすげえよなぁ。でも罠に嵌められたならどうかな?」


 鬼神は70階フロアで、無数の迷宮魔獣を無双していた。


 ゴブリンオークや、スケルトンなどの屍が散乱している。


 これらの死骸を片付けるための〈システム〉がダンジョンアトラクションタワーには完備されていた。


「死に晒せ!」


 屍田踏彦がスイッチを押すと、70階のフロアすべてに落とし穴が開いた。


「ぁん?」


 スタジオの解説が空気を読んで、鬼神にカメラを向ける。


『おっとぉ、ここで70階層に到達していた鬼神選手が落とし穴です! 70階層にたどり着くなんて、ズルでもしたのでしょうか? しかしここはダンジョンアトラクションタワー。ズルをするものには制裁がくだされるぅ!』


「ひゃは! 死んだわ!」


 屍田踏彦は、残酷な笑みを浮かべる。

 落とし穴は人間に使うものではない。あくまでアトラクション内部の魔獣の死体を駆除するためのものだ。


 落とし穴の行き着く先は焼却炉だ。


 しかもこのタワーの法律上の分類は〈迷宮ダンジョン〉だ。

 人が死のうと許される。


 人の死を食って生きるのだ。

 いままでもそうしてきた。


 法律さえ守っていれば、グレーなのさ。

 弁護士は稼いだ金で雇えば良い。


 この残酷さを武器に、屍田踏彦はのし上がってきたのだ。


「さて。邪魔者は駆除、と……」


『おおーっとぉ! これは、どういうことでしょう?』


 だが鬼神は落ちていなかった。


 フロア全体に開いた穴から〈壁蹴り〉で真上に跳躍し、再び70階層に降り立っていたのだ。


「は……? いったい、何をしたんだ?」


 屍田踏彦は頭を抱えた。


「普通、死ぬだろ? あいつ、人間か?」


 だが屍田は諦めない。マスターキーを握りしめ、次なる罠を目論む。相手を消し去ることへの執着では、誰にも負けないからだ。





 フロアにでかい穴があいた。70階層のホールごとぱかりと穴があいた。

 穴のサイズはプールくらいだ。


 落とし穴とかいうレベルじゃない。

 侵入者を抹殺するという強い意思を感じる巨大穴だった。


 俺はブーストハンマーから、圧縮空気を射出。


 まずは〈空中ダッシュ〉をする。


「ぬん!」


 20メートルの空中ダッシュの後、壁に手をつく。


 そして〈羽毛ジェム〉を起動。

 上半身だけを軽くし、壁蹴りで真上にリカバリ。


 無事フロアに戻ってやった。


「あぶねー! 壁蹴り使えて良かったわ」


 鬼神落下からの復帰の瞬間は、ネット配信でバズり始めていた。

 通知がぴこんぴこんと増えていく。



『鬼神ニキ、壁蹴り使えるの?』

『三角跳びってレベルじゃねーぞ?』


『ロック○ンXか?』

『空中で二回飛んでたから挙動はゼロ』


『スマ○ラでは?』

『復帰うますぎ』

『もはや不死』


『落下できない男』

『重力で人は殺せないんですよ?』

 


 メルルが気を使ったのか「鬼神ぃ。コメントみるぅ?」と聞いてくれた。


「お、マジかよ。みせてくれ」

「ほいよ」


 俺は、一休みも兼ねてホログラムのコメントをみる。

 メルルが配信をしてくれているので、この点は楽だ。


 スパチャがバンバン飛んできたので、嬉しくなった。

 リアルライブでコメ返するのもいいかもしれない。


 俺はリコに教えてもらったトークで、不器用ながらもコメ返していく。



「皆、ありがとう! いやぁ。壁蹴り覚えといてよかったわ!」


『壁蹴りとか覚えれるもんなの?』


「樹木で練習しました。あざます」


『何をやればできんの?』


「浮遊ジェムで身体を軽くすりゃあいいよ。でも足だけは重さはそのまま。上半身をジェムで軽くして、蹴りだけいつもどおり。あとはコツ」


『足の筋力だけはそのままってことですか?』


「そそ。理に叶ってるだろ。。最初は身体強化とかブーストジェムとか使いながらがいいよ」


『新技術じゃね?』

『未開の新発見キタコレ!』


『今しがた試してみました。家の壁で壁蹴りできましたが、頭もぶつけました』


「おいおい。気をつけろよ」


『心配してくれてる』

『優しい』

『鬼の自愛』


「照れるって。うーし。そろそろ進軍始めるけど。なんか上にいくのもつまんない気がするんだよな。俺優勝とかどうでもいいからな。皆のお陰でスパチャいっぱい貰ったし。信頼の方が第一だからね」


『正論』

『もしかして常識人ですか?』


「まあ、人並みにはな」


 俺は71階へ向かう階段で、ふと考える。


 この穴の下って、どうなってるんだろう?


「ちょーっと思ったんだけどさ。いきなり突っ込んでいって優勝ってのもつまんねーと思うんだよな。迷宮探索者なんだから、探索してなんぼだろ?」


『もしかして』

『やめろ。それだけはやめろ!』

『押すなよ、押すなよ?!』


「フリをされたらなぁ。やるしかねーよな」


『神の戯れ来た!』

『どういうこと? 鬼神は何をしようとしているの?』


「ここから飛ぶんだよ……。くまなくタワーを回りまーす!」


『it's crazy!』

『疯狂的』

『पागल!』

『сумасшедший!』


 よくわからないが、色んな諸国の人が見てくれているようだ。

 

「ちなみに落下には慣れてるし、ジェムもあるので大丈夫でーす」


 以前居たブラック迷宮探索会社では、高所からの落下は日常茶飯事だった。


 タワー型の迷宮では労災が降りないから、自分でなんとかするしかないんだよなあ。


「行くぜ!」


 俺は自分からあえて、穴に飛び降りる。


『いった?!』

『マジでやりやがった?!』

『え?! え?!!!!』

『拡散しました』

『神の戯れでしかないwww』


 コメントに後押しされながら、俺は巨大な穴めがけてあえて飛び込んでやった。



――――――――――――――――――――――――

大事なお願い

おもしろくなってきたら、☆☆☆評価&♡&コメント&レビューを宜しくお願いします!!!







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る