第32話 女神きゅん


「鬼神さん。オファーが来てたよ。ダンジョン。」


 その日もダンジョンから帰って俺のアパートでリコといちゃっていると、リコがスマホを見せてきた。


「あぁ? ダンジョンアトラクションの出演権? 開催者は〈屍田踏彦かばねだふみひこ〉さん?」


 ベッドでリコに腕枕をしながら、仕事のトークをする。

 

「屍田さんとはね。一度、ん……。会ったことがあるんだ。いつかオファーするって言われたんだけど、ね……。タワーマンションの管理人って自慢してたよ」


 俺はリコを抱き寄せつつ、仕事の話を詰める。


「いけすかねえ野郎だ。しかも参加条件に輝竜リコと同伴することって書いてある」


「でも、これはぁ、チャンスだよぅ♡ ネットチャンネルでも、全世界中継されるんだよ」

「やってみる価値はあるか。仕事の話は終わりだ」


「うん……♡」

「俺はてめーを離さねえ。今日は仕事の話は抜きにして、俺だけをみろ」


「見るぅ♡」


 リコの両目は♡♡になっている。


「もう、迷わねえよ」


 リコの断末魔が俺のアパートに響く。

 大丈夫だ。もう俺以外いないしな。


 愛し合う。

 愛し合う。


「愛してる」

「俺もだ」


 罪坂の件を破壊したことで、俺たちの絆はどこまでも深まっていた。


「愛してる好き。しゅきぃ♡」

「俺も……愛してる。お前を傷つける奴は全員殺してやるよ」


「乱暴なとこもしゅきい♡ 愛してる」


「愛してる♡愛してる♡愛してる♡愛してるぅ♡」


 アトラクションと言われれば、おもしろくなってくる。

 俺は【参加ボタン】を押した。


 もうちょっと金がほしいからな。


 まとまった金ができたらアパートを引っ越したい。

 あるいは迷宮配信で稼いだ金を元手に、カタギの仕事に戻るのもいいかもしれないな。


 俺はこうみえて堅実なんだ。





 次の朝。目覚めると、水晶の迷宮のあたりで爆音が響いた。

 山崩れかもしれない。


「鬼神さん。大丈夫かなぁ?」

「ちょっと待ってろ。みてくるわ」

「気をつけてね」


 リコと妖精メルルを部屋において、俺は迷宮の入り口に向かった。


「何もないようだな」


 爆発の音は、迷宮の中腹部から聞こえてきた気がする。

 俺は聴覚が強化されているので、遠くの音から距離を推測することができるようになっている。


 緑地公園のある地点から、境界ラインを超えてば、迷宮第一階層となるのだが、強化聴覚で推測するに、爆音は50階層のあたりからのようだった。


「〈ヘカトンケイル〉にクラスチェンジしたあたりか」


 虹色のマナに満ちた泉があったっけ。

 声が聞こえてきて、ものすごい力の本流が流れてきた。


 マナの泉は迷宮ではよくある話なので、そういうものと受け止めていたが、もしやこのダンジョンに新たなルートが生まれたのかも知れない。


 俺は手始めに迷宮30階層まで、ぶらぶらと歩いてみる。


 ひうんひうんひうんひうんひうんひうん!


 ハチェットを振り回し、オークやサーモンウルフを瞬殺!


 ドリドリドリ、ドリドリドリィ! と、ドリルハンマーでゴーレムを掘削して進む。

 

 前方からは虹色のオーロラのような存在が歩いてきていた。


「なんだ?」


 果なる水晶の迷宮ではみたことのないモンスターだ。

 俺は畏怖の念さえ感じていた。


「ヴェーラ様。本当に、隣の異世界に来ていいのですか?」


「大丈夫大丈夫。迷宮は、世界と世界の狭間なんだから。ちょーっと迷宮からはみ出して鬼神きゅん♡の家に突撃したって、バレやしないわよ」


「完全に協定違反ですよ?」

「大丈夫、大丈夫♡ もうとっくに水晶世界から、妖精世界に渡ってる猛者もいるから。女神がはみ出したってどうってことないのですよ」


「このアマ、恋にくるってるな」

「ふぁ! エミス! みてください! 前方にもしや、あれは?!」


 虹色の光が俺を指さした。

 よくみれば人のようだ。


 胸を大きくはだけた女性だ。迷宮でその薄着は正気か?


(いや、でかすぎだろ。Jカップくらいあんぞ?)

 

 若い頃の俺なら乳に負けていただろうが、いまはリコがいる。

 わけのわからない女には騙されない。



「鬼神きゅん♡」

「誰だ?」


「はっじめまして♡ あなたに力を与えた、女神ヴェーラでぇす!」


「……すまん。覚えていない」


「この迷宮の50階層でクラスチェンジしたじゃないですかぁ。あのときは、あなたが死ぬまでマナを充填しようって思ったんだけどね♡」


「おい! 今、ありえないくらい不吉なこと言わなかったか?」

「ええ♡ あなたが死ぬでマナを注いだら、どうなるかなって♡」


「二回いいやがったこいつ!」


「でもあなたは死にませんでした。そこが気に入りました」

「女神がなんのようだ? コスプレするやばい探索者か?」


 女神の横の従者がずいと前にでる。

 

「残念ながら実在しますよ。迷宮を通じて、隣あった世界へ移動できるのです。通常の人間は、住んでいる世界の外側にでることはできませんがね」


「女神様がなんのようだ?」

「あなたに、頼みがあるのです。愛しの鬼神キュン♡」


「すまん。俺には心に決めた人がいるんだ」

「断るの早いよぅ♡」


「待て! 抱きついてくるな!」

 

 俺は騙された経験からか、女神を警戒する。

 神だろうがなんだろうが、俺はリコを優先すると決めている。


 わけのわからないやつの言葉には、乗らない。 

 だが女神ヴェーラは俺の手をするりと取った。

 

 途端に妖艶に目を細め、耳元で囁いてくる。


「世界には周期があります。善と悪の周期がね。上り坂と下り坂の数は同じですが、善と悪は増えたり減ったりを繰り返しているのです」


「すまない。俺には興味がない話だ。善も悪も、どうでもいい。俺は俺の生活を創っていきたい」


「わかっていますよ。そんなあなただからこそ、頼みたいのです。お花畑の善人ではすーぐにむっころされちゃって終わりですからねえ♡」



 女神を自称する女は一筋縄ではいかないらしい。

 俺は、金槌と鉈に手をかけた。


――――――――――――――――――――――――――

自信作

異世界迷宮で俺だけ上限値解放も宜しくお願いします!!

https://kakuyomu.jp/works/16817330649818316828


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