湖国襲撃

 湖国のブリッジでは大橋署長が操船の指揮を執っていた。そこに中野警部補がやって来た。彼女は肩にショットガンを担いだままだった。


「失礼します。署長、少しよろしいでしょうか?」

「ああ、大丈夫だ。今は問題ない。それでどうした?」


 大橋署長は中野警部補に顔を向けた。彼女は何か、思いつめた顔をしていた。


「今、捜査課がモーターボート2艇で救助に向かっていると聞いています。」

「それがどうしたかね?」


 中野警部補が何か重要なことを言いに来たと思って、大橋署長は回転いすを回して、彼女の方に向き直った。


「救助は警護課の仕事です。我々にさせてください。」


 中野警部補はそう言いに来たのだ。わざわざ危険な仕事を引き受けるために・・・。


「しかし君のところは部下を2人も失った。皆、嫌がるんじゃないか?」

「いえ、逆です。殉職した2人のためにも、私の部下は皆、役に立ちたいと言ってきました。私も同意見です。ぜひ我々にやらせてください。危険は承知です。」


 中野警部補は真剣な目で大橋署長に言った。彼はその目をじっと見て、その意志が揺るぎのないものと思った。


「わかった。警護課に任す。モーターボートが帰ったら交代したまえ。」

「ありがとうございます。では・・・」


 中野警部補は敬礼した。大橋署長も敬礼を返した。

 するとその時だった。いきなり、(カンカンカン!)と何かの金属がぶつかる音がした。異変に気付いた大橋署長が椅子から立ち上がった。


「何だ?」

「水中銃の攻撃を受けています。水中ドローンの位置は9時方向です!」


 見張り員が声を上げた。その方向に目を向けると、確かに盛り上がった波が向かってきていた。大橋署長はすぐにマイクを取った。


「現在、水中ドローンからの攻撃を受けている。だが外に出なければ問題ない。船内には水中銃の弾は通らない。各自、落ち着いて持ち場で待機。」


 大橋署長はそう船内に放送を流した。それで署員は冷静になり、船内はパニックにならなかった。大橋署長はその湖面を見ながら、


(そのまま弾が切れてやり過ごせるだろう・・・)


 と思っていた。するといきなり「ドーン!」と湖国が揺れた。水中ドローンが体当たり攻撃を仕掛けていた。警備艇と違って湖国の船体は強い。だが何度も体当たりを受けていたら、老朽化したこの船に何が起こるかわからない。

 中野警部補は身を低くして待機していたが、いきなり立ち上がってブリッジを出ようとした。大橋署長がすぐに呼び止めた。


「危険だ! 戻ってくるんだ!」

「いえ、任せてください!」


 中野警部補はそう言ってそのまま出て行った。

 彼女は船の左側の湖面を見た。水中ドローンが波を盛りあげて向かってきていた。それは湖国に体当たりして「ドーン!」と船体を震わせた。穴は開いてはいないが、このままではいつまでもつかはわからない・・・。

 水中ドローンは一旦、距離を取り、また体当たりしようと波を立てて近づいてきた。中野警部補は担いでいたショットガンを降ろして、2発の弾を込めた。そして膝をついて安定させてショットガンを構えた。


(できるだけ引き付けて・・・)


 彼女は距離を測りながら水中ドローンに狙いをつけた。


(1,2,3!)


 引き金を引いた。「バーン!」と音がしてショットガンの弾は水中ドローンをとらえた。だがドローンはまだ止まらない。中野警部補は排莢してさらに弾を撃った。


「バーン!」


 水中ドローンは進んできたが、湖国にぶつかる直前に波とともに沈んでいった。


「ふうっ・・・」


 中野警部補は額の汗を手でふいた。しかしまだ別の水中ドローンが襲ってくるかもしれない。彼女はまたショットガンを肩に担いだ。そして顔を上げた時、彼女の目が何かをとらえた。


「あれはドローン!」


 湖国の上空にドローンが浮いていた。


「あれは警察のドローンじゃない! 誰かが我々を監視している!」


 中野警部補はじっとそのドローンを見ていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る