第44話 告白

 まさか俺が真殿を振る日が来るなんて夢にも思っていなかった。本当に、人生何が起こるかわからないものだ。


 けど、仕方ないじゃないか。マキからあんなことを言われて、その直後に別の女子から告白されたって、受けられるわけがない。

 真殿がストーカーだったとか、マキの写真を持っていたとか、そんなことはあまり関係がないんだ。どっちにしても、俺は彼女の告白を受けなかったと思う。


「────未練があったのは、お前だけじゃないんだよ」


 あれから一週間経って、俺は再びマキの墓を訪れていた。もう声をかけても返事はないし、魂だってここにはない。それでも、一度ここに来ておきたかった。


「色々助けられたし、一応報告しておこうと思ってな。まあ、聞いてはいないんだろうけど……俺の気持ちの問題だ」


 念のため、周りに人がいないことを確認しておく。この墓地では散々奇行を繰り返したからな。これ以上何かしでかすと出禁になるかもしれない。それだけは絶対にごめんだ。


「あれから、真殿は俺のストーキングをやめてくれたみたいだ。本人申告だから確証はないが……嘘は吐いてないと思う。まあ、これで全部解決ってわけにもいかないだろうけどな」


 真殿だけでなく、牛見のことだってある。目下の問題は、デートの約束だけど……いや、あれはリセット前の出来事だったか。なら守らなくても問題はないのか。

 けど、情報はきっちり教えてもらってるわけだから、騙したみたいで気が引けるよなぁ。


 なんにせよ、あの二人との縁がこれで切れるわけじゃない。今後も二年近くはよろしくやっていかないといけないわけだ。


「いやぁ、モテ男は辛いね。世の中のモテ男は皆これをどうにかこうにか捌いてるわけだろ? そう考えると、奴ら結構すごいな? 改めてちょっと尊敬しちゃうよ。マジで」


 どれだけ努力しても、俺では辿り着けそうもない領域だ。というか、あれだけあった憧れすらもう消えかかっている。

 長年頑張って、目指してきたものではあるのだが、ある程度近づいてくると嫌な部分も見えてきて幻滅するというか、こんなはずじゃなかったって思うことがある。まさにそんな気分だ。


「でも……お前に好きって言ってもらえたんだ。半端な男になるわけにはいかないよな」


 今回の一連の騒動、俺が告白リセットと呼んでいる超常現象が引き起こしたトラブルについては全て、空回りしてばかりの俺のケツを蹴り飛ばすためのものだったのだろう。

 簡単な話だ。俺はマキを失ったことを、全然乗り越えられていなかった。乗り越えたように見えて、立ち止まったままだったんだ。


 だからもう一度だけ、チャンスを貰えた。あの時、やり残してしまったことをやる最後のチャンス。

 そして結局、俺はまたチャンスを逃した。俺が今日、ここに来た理由はそれだ。これだけは清算しておかなくては、俺は前に進めない。


「……今さらこんなこと言うのも、情けない気がするんだけどさ」


 それでも、言わないという選択肢はない。これだけ舞台を用意してもらっておいて最後の最後まで逃げたまま終わりじゃ、俺は一生情けないままだ。


 大きく口を開けて息を吸い、長い時間をかけて吐き出す。すると自然に緊張はほぐれ、するりと言葉が出てきた。


「俺も好きだったよ。お前のこと。当時は気づいてなかったけど、今になってようやくわかったんだ。アレは間違いなく、俺の初恋だった。そりゃそうだよな。じゃなきゃ、いくら唯一の親友とはいえ、あんな毎日病院に通わないよなぁ」


 これを五年前に伝えられていたら、どうなっていたのだろう。そんな、今さら考えても仕方のないことが頭に浮かぶ。


 人生初の告白には返事がない。そうでなきゃ口に出来なかったのだから、俺は臆病者だ。人生二度目の告白こそ、ちゃんと返事がもらえる内にしないとな。


「じゃあ、また、来年の誕生日に来るよ。その時こそ、何か良い報告ができるよう頑張るわ」


 墓場は依然として静かなまま。最後の最後に、奇跡的な現象が起こって、マキの声が聞こえてくるようなこともない。


 ……さて、じゃあやるべきことも済んだことだし、牛見との約束でも果たしに行くとするか。

 一切乗り気がしないが……約束は約束だからな。一度言ったことを簡単に翻すような男は駄目だ。あと、ついでにマキに使ってたお札も返さないと。


 もうリセットに囚われることはない。良い意味でも、悪い意味でも、全てが一発勝負になる。

 やり直しがきかないから未練が残る。後悔が残る。完璧じゃない俺は、今後も多くの失敗をするはずだ。


 でも、だからこそ、人の想いは強くなるんだ。同じ後悔を二度としないために、頑張れるようになるんだ。


 ……なんて、そんな教訓を得たことにしておこう。本当はただ二人の男女が、お互いにワガママを言って、ルールを捻じ曲げただけなんだけど、そういうことにしておいた方がまとまりが良い。


 とにかく、言いたいことは言える時に言っておいた方が良いってことだ。これだけ散々無茶苦茶なことをしておきながら、結論としてはその程度の、もの凄く簡単な話だったのである。

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せっかくモテ期が来たのに告られたら時が巻き戻るラブコメ 司尾文也 @mirakuru888

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