第13話 幽霊を見たとか
リセット現象に翻弄される俺に、ついに頼れる仲間ができた。それは五年前に死んだ幼馴染の幽霊で────という、あらすじを聞くだけで頭がおかしくなりそうな状況だが、俺は決してトチ狂ったわけではない。これらは全て現実で、事実なのだ。
マキを学校に連れてくるためには、専用のお札が必要になるとのことだったが、それがどうすれば手に入るのかはわからない。しかしお札と言えばこの人、という人物が俺の隣にいる。
お札界の第一人者、お札の中のお札、お札の擬人化、お札の代名詞、お札マスターなどなど数々の異名を持つ札付き女────牛見つみれだ。
……まあ、冗談はともかくとして、彼女がこのリセット現象に何らかの形で関わっている可能性があると、俺は見ている。
理由はいくつかある。一つは、オカルトグッズを用いた儀式の件だ。アレがただの妄言でないのなら、彼女は何らかの超自然的な力を持っていることになる。リセット現象との関連は不明だが、無関係とも思えない。
二つ目は、リセットの度に行動が変わっていることだ。真殿はリセットを経ても俺に告白してくれたし、田中先生やクラスメイト達の行動もほとんど変化していなかった。
にも関わらず、牛見の言動は毎回毎回大きく変わる。特に告白したりしなかったりするのが怪しい。あんな極端な変化が理由もなく起こるだろうか。
以上の理由から、俺は牛見つみれを怪しいと睨んでいる。
筋は一応通っていると思うが……まあ、決定的な証拠には程遠い。あいつがそもそも変人だから、なにか企んでいそうっていう先入観も間違いなくある。
「────さっきから私のことジロジロ見て、どうしたのかな?」
授業中、俺が横目で牛見を観察していると、それに気づいた彼女がニヤニヤ笑いながら問いかけてくる。
なんかもう、こいつが全ての黒幕なんじゃないかって気がしてきた。この笑みだって、俺が困っているのを全て知った上でのものにしか見えない。
もういっそ、ここで直接問い詰めるか? 案外それで解決するんじゃないのか?
……いや待て、流石にそれは安直すぎるか? 一度マキの意見も聞いておきたいしな。ここはやっぱり、お札に関する情報集めが優先か。
「昨日は……ごめん。寝ぼけたままで説教食らって、変なこと口走ったよな」
「昨日? 何のことかな?」
こいつ、自分が告白してもいないのに振られたことを忘れてるのか? あんなことがあったら普通忘れないと思うけどなぁ……下手したら一生記憶に残るぞ。
「まあ、忘れてるならいいや」
「あ、昨日と言えば、君、午後の授業いなかったけど。どうかしたの?」
「え、あぁ……えっと、裏庭で昼寝してた」
「……君ってやっぱり変わり者だねぇ」
牛見にだけは言われたくない……が、こればかりは彼女の言い分が正しい。昼寝して午後の授業をすっぽかすなんて、不良気取りの中学生がやることだ。変人扱いされても仕方ない。
「そういえば、あの委員長もいなかったけど、君は何か知ってる?」
「……真殿が?」
「そう、彼女も午後の授業には出てなかったんだよね。君と二人で消えたから、ひょっとして逢引きなんじゃないかと思ってたけど」
牛見は中央最前列の席に座る真殿に目線を向けながら、おちょくるようにそう言った。
真殿も教室に戻らなかったのか。ひょっとして、俺が寝ている間ずっと待っていてくれたとか? でも、目覚めた時は誰もいなかったけどな……。
真殿には昨日のことを謝りたいと思っていたが、どうにも気まずくてまだ声をかけれていない。昼休みになったら謝って……ついでにその辺の事情も聞いてみよう。
「でも、君とあの委員長じゃ釣り合わないし、そんなわけないか」
「うるさいなぁ……そこは俺も同感だけど。そんなことより、お前にちょっと聞きたいことがあるんだけど」
授業中なのでなるべく声を絞って、また余計な説教を食らわないよう慎重に質問する。
「お前、幽霊っていると思う?」
一つずつ段階を踏んで聞いていこうと思い、最初は様子見で軽めの質問から入れてみたのだが……牛見は乱暴に椅子を倒しながら立ち上がり、俺の胸ぐらを掴んだ。
そして頭皮、うなじ、脇付近など、頭の先から順番に鼻先を近づけて、すんすんと臭いを嗅いでくる。
「うぇっ⁉ おま……ひぇっくすぐったい‼」
「やっぱ君、そうか。時々変な臭いがすると思ってたけど……それが今朝から無視できないほど濃くなってる。流石にこれは確定でいいかな」
「へ、変な臭い……?」
……馬鹿な。前回の反省を生かして、朝ジョギングの後にシャワーを浴びてきているんだぞ。耳の裏までちゃんと洗って、服だって清潔にしてる。臭いなんてするわけが────
「昨日……そう、君を最後に見たのは昼休み前だから……それ以降に何かあった?」
「な、何か?」
「例えば、幽霊を見たとか」
「────ッ⁉」
驚愕が顔に出たのが、自分でもわかった。それを真正面で見つめる牛見が見逃すはずもない。
「心当たりアリって顔だね。ちょっと来て」
「うお⁉ ちょ、ちょっと、待て待て待て‼」
せっかく悪目立ちしないよう小声で話していたのに、牛見はそんなことなど一切気にしない。
教室中の視線を──もちろん真殿の視線も含め──集めても意に介さず、俺をズルズルと引きずって教室を出た。
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