日記

〇〇〇〇〇年 ×月 二四日 天気・晴れ


 今朝、作業場へ行ったら奇妙なオートマタを見つけた。最初は、それがオートマタだとは思わなかった。ゴミ置き場の上に、綺麗な状態で横たわり動かなかったから、人だと思ったのだ。駆け寄って、その異様さに気付いた。


 まず、この部屋は密室だった。サスペンスのような言い方になるだろうが、その通りだったのだ。そして、もう一つ。目を疑うことがあった。それは、彼女の腕にかなり深い切り傷があったことだ。おそらく、ゴミのどれかで切ったのだろう。ただ異様だったのは、血が出ていないことだった。


 体温は正常だった。つまり、温かかった。だが、直感でこれはオートマタなんじゃないかと疑った。確証はなかった。勘だ。


 ありえないと、そう同時に思った。今までの経験で、こんな人間みたいなオートマタを見たことがなかったからだ。肌は柔らかいし温かい(つまり、死んだ人間ではないことはわかった)。だから急に怖くなった。なにか、大きなもの(企業や、国)が関わっているのではないかと思ったからだ。だけれど、だとしたらなぜそんな物があそこにあったのか、それはわからない。

 スイッチはなかった。リモコンも。起動の仕方がわからなかったから、とりあえずスキャナーに掛けた。すると、中は見たこともない構造をしていた。複雑すぎる部品が、ねじまがり折れ曲がり、交錯して詰め込まれていた。意味がわからなかった。だが、そこから俺はある衝動に駆られた。そして、彼女をレントゲンにかけてみた。といっても、簡易式のものだ。うちにはそれしかかなった。いずれ、ちゃんとしたものを買わなくてはいけない。

 そしてまた驚いた。映し出されたのは、人間の体内だったからだ。どういう原理かはわからなかった。だが、そこになにかしらの陰謀があったことはまちがいない。人間に見えるオートマタ。怖い。きっとまた完成していないんだろう。試作品かもしれない。でなければ、血が出なかったことの説明がつかない。


 それ以上触るのは怖かった。できない。そっと部屋に運んで床に寝かせた。傷が、直っていた。


 そして俺は、ルークに連絡をした。


〇〇〇〇〇年 ×月 二五日 天気・晴れ


 今朝になってまた、気付いたことがあった。あの機体が置かれていたゴミ山で、剥がれたと思われる人造(だと思う)皮膚を見つけた。

 それを、分析してみることにした。今思えば、しないほうがよかった。


 そう、ミステリーっぽくいくなら、それはこの世のものではない物質でできていた。だが、単に自分が知らないだけという可能性もある。だから、コンピュータでの照らし合わせも行った。だが、該当する物はなかった。つまり、既出の物質ではないということだ。

 この世の物でないことなど有り得ないが、だとしても、奇妙だった。

 はやく、コレを手放してしまいたいと思った。


 正午過ぎに、ルークが来た。嬉しかった。

 だが、本当のことは話せなかった。とにかく、手放したい一心だった。本当のことを話せば受け取って貰えないことは明白だったら、だからかなりごまかした。

 友人を騙したのだ。


 せめて、ここでは謝っておこうと思う。それで許されるとは思っていないけれど、そうでもしないと耐えられない。


 ルーク・スティーブン。すまない。俺は君に酷いことをしたかもしれない。俺は、お前の友達だったはずなのに。積み上げてきた物があったはずなのに。


 すまない


   ポーンの日記より

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