第8話 出発

 私はこれまでの話を聞いて、あの時妨害工作を受けずに仲良く歩んでいたのなら、どうなっていたのかを想像していた。


 二人は、仲良く卒業し、働きながらも一緒に生活し、拓弥君のサプライズプロポーズを受けて、やがて結婚する。そして、私達の子供も…。


 それは私たちが学生時代に描いた未来像だった。思いがけず脳裏をよぎり、私は突然悲しくなって、涙があふれ出た。


「うぅ…。」


「真由?どうしたの?泣いてるの?」


「ごめんなさい…。」


 拓弥君は歩くのをやめ、優しく私を背中から降ろしてくれた。私の足が痛くないようにゆっくりと。そして、彼は膝をついて私の目からこぼれる涙を拭いてくれた。


「真由、俺が何か言って、悲しませちゃったかな?」


 私は力を込めて首を横に振った。


「違うの。私たちが別れる原因は、私たち自身の問題ではなく、誰かによって破壊されたものだと分かったから、悔しくて、悲しいんだ…。」


「そうだね。俺もそう思うよ。あの時に戻れるなら、昔の俺に『あの写真に惑わされるな!嘘だぞ!』って言ってやりたいよ。」


「拓弥君…。」


 それから彼は何も言わず、私を優しく抱きしめてくれた。私も彼の腕に包まれ、心から泣いた。そして、彼の温もりによって安心と安らぎを感じたのである。


――――


 私の心が落ち着き、再び移動を再開した。拓弥君には申し訳ないが、私はまた彼の背にいた。


「拓弥君、辛くない?」


「大丈夫!でも、今日はもう少し進んだら休もうか。」


「うん。そうだね。」


 それから私たちは、10分ほど歩き続けていた。その先には、ちょっと見慣れた雰囲気の景観が覗かせていた。空間が広くなり、整えられた壁が視界に映る。地面に目を移すと、レールのような物が見えた。


「これってまさか…?」


「そうだよ。地下鉄だ…。」


 私は急に鳥肌が立った。ここから脱出できるかもしれない。絶望視していた状況から光明が見えた瞬間である。


「けど、電気が全く入ってないね。」


 状況からすると、ここは地下鉄だけど、照明が落ちていることから停電で消灯してる可能性はあるが、今は使っていない昔の地下鉄の可能性もある。きちんと呼吸出来ることから、地上と繋がっている筈だけど、位置関係は把握できない。


 スマホの時計は、16:20分と表示されていた。地下鉄なら電波が繋がることを期待したが、依然として圏外を表示していた。私達は、無駄なバッテリーの消費を防ぐ為に一先ず電源を切り、早めに休むことにした。


「真由。お腹すいたろ?」


「うん。でもこんな場所じゃあ…。」


「いや。あるよ!俺のリュックは魔法のリュックだ。ほれ、キャロリーメイトスだ。半分こしよう。晩御飯には少ないけど、無いよりマシだろ?ほい。お茶もどーぞ!」


「ホントだ。拓弥君、凄い!どうして持っているの?」


「死んだばあちゃんが、出かける時は携帯用の水と食料は持っておけって!」


「うふふ。また、死んだおばあちゃん?あの頃も良く言ってたよね。」


「ああ。ばあちゃんは偉大だ。でも、ホントの話だぞ!」


「うふふ。じゃあ、死んだおばあちゃん様々ね。」


―――― to be continued ――――

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