第19話 制圧準備の準備(テオドール視点)


 反乱軍が、ついに戦線布告した。


 ルーベルティア再興と、現王族の廃止ならびに新女王をたてさせろとの要求だった。


 すでに彼らは、旧ベルティア城や地下道を本拠地として、ルーベルティアと王都の間にある中都市・ギャスケットをすでに半分占領するかの勢いである。


 彼らの要求文書のどれにも『女王エリシアのために』だと書かれていた。



 

 (全くどいつもこいつも、ふざけやがって。)


 何が女王のためだ……シアがそんなことを、のぞんでもないこと

―――それどころか、自身のルーベルティアとの関係性だって見出だせていないだろう。




 テオドールは手元にある資料の一族の写真―――少女の写真をじっーと見つめる。


 


 ―――ルーベルティアの反乱。


かつて、ルーベルティアを治めていた公爵一族が民に殺された事件と反乱である。



その地には、公爵、公爵夫人、その息子、そして民から唯一愛されていた公女がいた。


 公女以外は、公務を何も成し遂げず、民が税について縋っても、公女以外は何もしなかった。それどころか、侯爵夫人や侯爵、侯爵子息は豪遊までしていたという。

 民はすべてを公女に頼った。重税で民は苦しんだという。


 そして遂に反乱を起こした民は、公女を除く公爵一族を殺そうとしたが、手違いで、公女も殺してしまった。


反乱を起こした民は、いなくなった公女に泣きながら謝り続け、懺悔をしていた。

 そして、せめて公女の遺体だけはきちんと埋葬しようとしたが、血とドレス以外は何も見当たらなかったという。



 とその資料には書いてある。


 消えた公女に対して、大抵の人は、『公女は死んだ』という認識だった。


 しかし、遺体の有無のせいで、公女生存説があがったことも何度もある。それは民が壊れたルーベルティアの再興を目指すために、公女の存在にすがりたかった事からその説がきているのかもしれない。


 

 その公女を女王に祭り上げて、今の王族に歯向かうつもりなのだ。

 女王をたてたのは、自分たちだけで王族に歯向かうのは恐ろしく、そして彼らは責任から逃れたいからであろうことが容易に想像がつく……




「消えた公女に向かって何でもするからと謝ったくせに…………生きてることにして、更には利用しようとするのか。

 おまえたちは自分のことしか考えられないのか……


 せめて、まず生きてたとしても、殺そうとしてすまなかったと謝りもしないつもりなのか。」

 



 『民は王族貴族に苦しめられている。』


 たしかにそうなのかもしれない。


 だが、支配側だって人間だ。

 上の立場の人間だって、民によって苦しむことはある。


  

 大の大人の民が寄ってたかって、『自分たちは好き勝手やるから、責任はすべてただ一人の名目上の支配者公女に押し付ける』と言って反乱を起こすなど許されることなのか。


「許されるわけがないだろう。」



 世の中は理不尽だ。理不尽の塊でできている。

 平然と恩を仇で返す人間がこの世の中にはごまんといる。


 (知っているか……貴様らは。

    自由には責任が伴うのだということをな。)


『コンコン』


「入れ」



「殿下、制圧軍に関する決議がはじまります。」

 


「わかった。今行く。」



 ――――――――――――――――――――――


「それでは、エリシア=リステアード侯爵令嬢の救出ならびに反乱の制圧に軍を派遣するということで決定いたしますか?テオドール殿下。」


「もちろんだ」


 (しかし、この緊急自体にわざわざ決議を取らねばならないのは、非効率的だ……規則とはいえ……)とテオドールは思う。


 (まぁ、全員可決で終わるだろうが……)


「それでは、ひょうを取ります……賛成の方はお手をお上げください。」



 さ―っと手が上がる…………否、半分近くしか上がらない。可決には3分の2の賛成が必要だというのに……。


(この緊急事態に何を考えているのか……。)



 ―――しかも、挙げていないのは宰相や宰相と親しい財務関係者が主だ。


 彼らは俺を王太子の座から引きずり落としたいらしく、その上扱いやすいと思われている従兄妹のユーリアを王座につけたいようだ。



 だが、逆に言えば、王位継承やそれに関する決議以外はいつも邪魔をしてこないはずなのに、何なんだ?



 (まさか、こんなところで、妨害をくらうとは…………)

 

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