第20話 思わぬ妨害をどうする?(テオドール視点)

「エリシア=リステアード侯爵令嬢の救出ならびに反乱の制圧に軍を派遣するということに反対ということか、宰相?」


 議会の決議で、半数の賛成がえられなかったテオドールは焦っていた。


「殿下、反乱軍の制圧には私も賛成だ。だが、なぜリステアード侯爵令嬢の救出にまで軍を出さねばならないのか?」


「人命を助けるのは当たり前だろう!何を言ってるんだ?!」


 テオドールの感情の影響を受けて漏れ出た魔力が、天井からぶら下がっている灯りを大きく揺らす。


 場にいた、多くの者たちは顔を青くしたが、宰相だけは動じなかった。


 それどころか、宰相はフンと言いながら嫌味そうにテオドールを見下したような目で見ていた。



  

「聞くに、リステアード侯爵令嬢は、自身が進んで女王として反乱軍の先頭にたっているというではないか。」


「そうだそうだ!宰相の言う通り。

 なぜ、反乱の元凶を助けねばならないんだ!

 反乱の制圧軍は、どうせ皇軍として我々の領民が駆り出されるのだぞ!」


 議会のあちらこちらから声が上がる。



「よく聞け、リステアード侯爵令嬢は反乱に関わっていない。反乱を企む者たちによって誘拐されている。

 恐らく、監禁もされているはずだ。彼女は首謀者などではない。無理やり祀り上げられただけだ。」


 


 

「どこにその本当に誘拐されただけだという根拠がある?どこに本当に侯爵令嬢は関係がないという証拠がある?」 


「宰相!貴殿はなにか侯爵令嬢に恨みでもあるのか?」

 


「別に恨みなどない。

 ただ冷静になりなされ、殿下。

 そのように、なぜ、かようにあの令嬢に殿下は肩入れなさる?

 婚約者といえど、ただの一令嬢に過ぎぬはずだ。


 なにか、あの娘に固執する理由でもおありか?」



 頭のキレるテオドールといえども、このたぬきおやじに言われると、言葉に詰まってしまう。

 だてに宰相もベテランたぬきおやじをやっているわけでない。



「…………私情があるのは認めよう。だが、それ以上に、人命、民の命は守らねばならぬ。」


「……ほお。私情とお認めになるか。

 それに、民の命か……。

 だが、我々は、殿下の私情のために軍として、我々の民を出そうとは思わんな。の命が大事なのでな。」

 

「ならば、エリシア=リステアード侯爵令嬢の救出には、私だけで行く。」



「「は?」」



「王族が自ら、それも一人で一令嬢を助けに行くなど前代未聞の事態だ。

 あり得ぬ。

 しかも、反乱の先頭に立つ反逆者疑惑のある者を助けに行くなどっ!」


 誰も彼もが反対する。当然のことだろう。

 テオドールは王族、しかもただの王族でなく、王太子だ。そんなわがままは普通許されない。


 

これまでいっさい口を開かなかった王が動いた。


 

「テオドール、お前正気か?」


「ああ、正気ですとも。父王。」



 父子の目線が交差する。



『…………血は争えぬか…………』

 


 フッと王が笑うと、何やらブツブツと呟いて、席をたった。

  



「お前たちの判断に任す。」



 そう言って大講堂を王は去った。



 そうしているうち宰相たちは何かを話し合ったようだった。



「殿下、リステアード侯爵令嬢の救出に向かって頂いても結構でございます。」



「………………何が目的だ?」



「あいかわらず察しのいい…………。」



「我々からの要求は、侯爵令嬢の救出に向かうというのであれば、王太子の座を降りてもらいたい。テオドール殿下。

 王太子の座を死守したければ、あの忌々しいルーベルティアに我々が向かわせないという、お心づもりを。」




 (……そうきたか。)

 王太子の座など早々におりれるものではない。

 後継者だってすぐに教育できるものでもないし、王太子でない自分など、侯爵令嬢のエリシアと釣り合いもとれない。


 テオドールの答えは決まっていた。

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