第11話 成人の儀(舞踏会)その3

 

 そろそろ暑くなってきましたね。もう半袖でないと過ごせません。(笑)


 _____________________


 ふと、セドリックがその鋭い視線に振り向くと……。



 テオドールが物凄く、セドリックをにらめつけていた。


(あっちゃー………………)


 しっかり、殿上人の怒りをかっていた。


 自分の腕のなかでくるくると踊るエリシアに向き直って真面目に聞く。


 「なあ、お嬢ちゃん。婚約破棄ってホントにしたんだよな……?」


 「? はい。もちろんですけど……」


 

(……まじかよ……怖……)


 いまだ目の前にある、破壊力のあるくらい美しい笑顔は、多くの人を惑わせ続けているようだとセドリックは改めて思った。





 

 そして、そのエリシアの顔を惚けて見ている男がここにもいた。


「…………フィル、エリシアを監視しておけ。」


「かしこまりました、殿下。…………と言いたいところなんですけど、その言い方だと語弊が生まれません?」


「…………? なにか間違っているか?」


「…………エリシア嬢は犯罪者ではありません。

 素直に、エリシア嬢を護衛してくれといえば言いものを……」

 


 フィルのおちょくりをフル無視するテオドール。


 視界には、くるくると舞う彼女しか入っていなかった。



 

「…………絶対に手を抜くなよ。

 エリシアさえ、奴らの手に入らなければ、✕✕は絶対に起こらない。

 彼女の身は文字通り、んだからな。」


「御意」

 



 しかし、ここで会話を終わらせない、余計なことを言うのが、このフィルナント=バルデルスという男であった。

 

 

「でも殿下、今までよくエリシア嬢にフラレなかったですね。」


「……黙れ……俺はフラれてなんかいない。」




「でも婚約破棄しましたよね???

 …………殿下が要らないんでしたら、エリシア嬢を私にくれませんか?」





ドドゥーーーーーン!! と雷か地響きの音がしてから……



『パン! パリリンッ!!!』


 会場内のグラスというグラスが軒並みすべて割れる。


 静まり返る会場内…………

 皆、誰が何を起こしたのか理解できなかった。



 

 が、フィルにはわかる。


(絶対、殿下………………。

 うわっ……めちゃ、怒ってるやん………………。

 しまった、おちょくりすぎた…………)


 ひとり、どす黒い空気をまといながらも、王太子営業スマイルを浮かべているところが余計怖い。



 

 王城の使用人たちが大広間を慌ただしく走りまわる中、テオドールは冷たく、静かに告げる。


 

「誰が、他人にやるかよ…………」




 

 


 ――――――――――


 「つ、疲れた…………」

 

 あのあと、なぜか異常なくらい大勢の人に囲まれつづけたエリシア。

 もうへとへとである。


 お兄様からこっそり借りた、姿が見えなくなる指輪をこすって作動させ、そのすきにこっそりと会場を抜け出した。

 

 王太子妃教育で、さんざん王城に来ていたので、王城の構造はほぼ熟知している。



 今いる裏庭園はエリシアのお気に入りだ。


 大庭園の方が見ごたえがあるということで、そちらの方が人気だが、エリシアはこのひっそりした裏庭園を気に入っている。


 あのベンチ――



 「むかしは、テオドール様も一緒にこうして座って庭を眺めていたっけ……」


 静かな夕暮れの庭園にいると、ときどき、無性に何かが恋しくなる。

 世界の理を悟ったかのように、悲しくなる。


 

 自分が何者なのか、何か忘れてないか、と不安になる。



 トワイライトゾーン夕暮れ時はエリシアの心を弱くする。



(さあ、戻ろうっか…………)


 そろそろ冷えてきた。


 ベンチから立ち上がったちょうどその時、目の前に黒い影が映ったような、そんな気がした。




「気のせいか……」

 

 いや、気のせいなんかじゃなかった。

 耳元で、なにかを唱えられる。魔法だ。


 

 途端に体が傾いていく。

 

 「うっ、んぐ!」

 すかさず口元にあてられた布で息が苦しい……。

 

 (なんなの!? 最近こういうの多すぎない?)

 


 

 そして、思考が暗闇に落ちていった――――



 

 

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