第10話 成人の儀(舞踏会)その2



「そこのお嬢様さん。」


 いかにも、チャラいですと、顔に書いてある男が話しかけてきた。


「今宵はいかがですか?」


 


 たしか、セドリック=ルッツラード伯爵令息だ。

 あまり、噂で人を判断したくはないが、良い噂は聞かない方である。


「なんの用でしょうか、ルッツラード伯爵令息。」


「俺と踊ってくれません?」


「…………婚約者の方はどうされましたか?」


「先程、フラレたよ。テオドール殿下がフリーになったからって、今日この日にフラレた野郎どもは多いぜ。つまり、俺は君と同じさ。」



 別に、言ってることは事実だが、なぜか腹が立つ…………




 (せっかくの申込みを蹴るのは、セドリック様の顔に泥を塗る。そうなると、彼も私も新たな婚約者を見つけるのに苦労するだろう。)


 同じように、婚約破棄された者同士だから情がわいたのか、はたまた、エリシアの視界の端っこに踊るテオドールを見たからなのか……


「ええ、いいですよ。ルッツラード伯爵令息。」


 セドリックは少し驚いて、でもまたいつものチャラい感じに戻ってから、大広間の中央にエリシアを誘導しはじめた。


 (手際がいい…………あまり良い噂がなくても、セドリックが多少なりともモテる理由はこういうところだろう……)


 新たな一曲がちょうど始まる。


 エリシアはセドリックに合わせて踊りはじめた。

 

 ダンスはそこそこ得意だが、踊る相手がセドリックなので、タイミングや癖がテオドールと違うので、かなり集中して踊っていた。


「ねえ、エリシア嬢。」


 「かたいよ。表情が。それだとまるで、義務のために嫌々こなしてますっていうのが丸わかりだぜ。」


 

 『あっ!』と思った。

 自分はそんなつもりがなくても、テオドールにされて嫌だったことを平然と人にしていたんだと気が付いた。


 「ほら、笑え。お姫様。」


 なんだか、そんなにセドリックが悪い人ではない気がしてきた。

 自分の間違えに気が付かせてくれる、新たな友人ができたようで少し嬉しかった。


 

 『フワッ』

 大輪の花々が美しくほどけるように、エリシアは笑った。



「っ……!」


 (こんな表情もできるのかよ)


 セドリックは焦っていた。

 あの万年鉄壁仮面二人組のひとりである、エリシアがこの世のものとは思えないぐらい美しかったからである。


 (もったいない。ふだんから、そう笑えばいいのに……。いや、国が滅びるか……)



 エリシアは懸命に踊っていて周りを気がついていないが、周囲の人間も、エリシアに見とれている。


 心なしか、会場もどよめいている。

 

 ふと、セドリックは背筋が凍りそうな鋭い視線を感じた。


 

 

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