第12話 (回想1)シアとユーリア


 昔から、自分はダメな奴だ、出来損ないだって言い聞かせてきた。


 12歳より前の記憶はあやふやなので、きっかけ……は忘れたが、12歳になって、本格的に魔法を学ぶための学院に入ってからは、それがひどくなったような気がした。





「お前! こんな簡単な魔法すら使えないのかよ。」


「よくそんなんで、今まで生きてこれたな。貴族として恥じゃないのか?」



 決まって、”魔法使いたちの名門の家、リステアード侯爵家の人間なのに……”

という目で見てくる。



 お兄様やお姉さまが優秀な魔法使いであることが有名であったから、出来損ないの自分に向けられる視線はとてもきついものだった。



 当初の私はお兄様やお姉様をうらやんで、ねたみそうだったが、親戚筋から懸命に自分をかばってくれる二人に、そんなことは出来なかった。



 自分をかばってくれる人たちに、こんなどす黒い感情を向けるなんて自分は本当に最低だと、余計に自分を卑屈に責めて、さらなる自己嫌悪に陥ったりもした。


 やがて、時を経て、徐々に自信が身についたりもしたが、心の奥底では自分に自信がない。


 だから、テオドールに婚約破棄された時も、自分の心が壊れないようにいろいろ理屈をつけて、平気なふりをしていた。



 心の奥底で、もう一人の自分がボロボロに傷ついているのを見ないようにしていた。これ以上悲しみたくないから、これ以上誰かに傷つけられたくないから。







 

「辛気臭いわね、あなた。」


王太子妃教育を受けた後、王城の裏庭でそうやってめそめそしていたとき、そう声をかけられた。


 自身に満ち溢れ、じぶんは絶対に正しいというような表情をした少女がたっていた。私と同い年ぐらいだろうか。


 この、テオドールと顔立ちが似ていて、同じ金色の髪をもつ少女の名は、ユーリア。テオドールのいとこで王族、つまりは王女殿下である。


「めそめそしてたって、なんにも始まらないでしょうに……。

さては、あなたおバカなの? 

まったく、仕方ないわね……わたくしに話してみなさいよ。」


 同世代の友人がなかなかできなかった私は安心して、号泣して、そのままユーリア王女に抱き着きながら、ことのあらましを洗いざらいぶちまけた。



急にエリシアに抱きつかれて、困惑していたユーリアだったが、意外にもきちんとエリシアの長い長い話を聞いてくれた。

 

 「最低なやつらですわね。

 シア、学院のそいつらはシアの気をひきたいだけですわ。

……ご親戚の方々は、あらかた侯爵家本家という立場に嫉妬してるだけですわ。

気にしなくて結構!って言っても気にするでしょうけど。」


「でも、私が出来損ないなのは事実なんです……」


「まったく! 自信をもちなさいよ!

 このわたくし王女ユーリアの友人であるあなたが、自信なさげにめそめそされていては、わたくしの顔がたたなくってよ!」


「友達になってくれるんですか?!」


「し、しっ、しかたないから、友達にしてあげるって言ってますの……ょ」


「ありがとう! これからよろしくね!」


「えぇ、よろしくおねがいしますわ……」


 こうして、学院で、エリシアとユーリア王女はどこに行くも、ともにいることが多くなった。

 

 ふたりとも気が合ったというのもあるが、

 少しわがままでも芯が通っているユーリアとともにいるのは、自分に自信がなかったエリシアにとっては心強く、頼もしかったのもあるのだろう。





 しかし、普段誰とも会いたがらないユーリア王女がエリシアに話しかけたのはなぜなのか。






 

エリシアが去った後のこと




 「お兄様……どうせそこにいるんでしょう?」


 ユーリアが周辺に、どことなく声をかける。


 「なんだ?」


 「やっぱりいましたのね。(ずっといたなんて、気持ち悪くってよ)

 お兄様の頼みで、エリシア嬢に話しかけましたわ。

 あの子、相当気が滅入っていましたわよ。

 婚約者であるお兄様は今の今まで、何をなさっていたんですの?!」


 「……同世代のユーリアの方が、打ち明けやすそうかと思ってな。

 ユーリア、君に友人ができないことを叔父上もひどく頭を悩ませていたから、一石二鳥かと思って……」



「だからって、あそこまでほっとくお兄様の気が知れませんわ。

 次、あの子を泣かしたら、金輪際お兄様にあの子を会わせませんから!」



プンプンと去っていくユーリア。




「……ずいぶんと入れ込んだね。


 それと、僕はエリシアをほっといたわけではないんだ。

……シアにとって、僕は……恨むべき相手だろうから……」











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