〜再会、海賊船の中にて〜

 それはまさに息つく暇もない展開。けれど明らかに違ったのは、今まで絶望と不安にしか駆られた事のないこの心へ、確かに希望が宿っている事実だった。


 フレーベル女学院からの避難で、離れ離れになった大切なお友達。そこからキバ騎士隊長との出会いを経ての、禁忌のΩオメガとの邂逅。さらには、私を狙うヴォルケヌス隊率いるヒューリー・ブロウとの戦いから、援軍として駆け付けた海賊船の協力のもと――


 私は諦めていた定めの呪縛を打ち破る、最初の一歩を踏み出していた。


「ユリン! ペクリカ……それにノルン! 本当に無事で良かった!」


「いやね? 船長的にはあんたの方が心配だったぞ、ふーたん。」


「それなのじゃ。まあペクリカ達が色々伏せて来てた手前、それも仕方なしじゃったけどなぁ〜〜。」


「今はそれもいいじゃない。再会を祝おうよ。」


 その最初の一歩が、なんと私を救出してくれた海賊船の中と言うのが、どうにも不思議な感じで。けれどなぜか、その状況にしっくり来る自分がいたのを覚えてる。


「さあさあお嬢さん方、取り敢えず祝うのはもう少し後にしてくれないかい? まだアレッサ連合の勢力圏を出たワケじゃないんだ。それに、奴らの目を誤魔化せるステルス・ミストルフィールドシステムの関係で速度も出せない。油断は禁物さね。」


『そゆこと。とりま、ウチの頭へ面会でもすませとけ。』


 そんな再会へ敢えて水を差す方々は、未だ私の知らないこの海賊船のメンバー達。姉御肌な女性と、何故かモニター越しで語りかけて来る縁無しメガネの少女と思しき影。それから――


「面会、すませるにょ!」


かしらもみんなを呼んでるにゅ!」


「えっと……ここ、海賊船だよね? こんな可愛い子達がいる様なトコだっけ?」


『おうおう、言われてんぞハルパル。』


「「失礼にゃ!!」」


 踊る様に現れたのは、どうみても双子らしい少女達。おまけに、それこそ学園で言えば初等部高学年に当たる身の丈で、とてもじゃないけどこんな危険な船に乗り合わせるのが疑問に思える子達。疑問符を浮かべながらプンプン怒り散らかす姿を見やっていると、友人達からささやかな助言が加えられた。


「あー……ふーたん? その二人はマジで怒らせんな? タガが外れたら、海賊船の大人合わせても抑えられない、ヤベェガキんちょだからな?」


「えっ!? それってどういう――」


「まあ詳しくは、それを語るべき人が話してくれるよ。さ、ふーたん……船長ヴァロックが待ってる。」


 どうも触れてはイケナイ事情を囁かれ、けれどそれは自分も同じだと、双子ちゃん達へよろしくねと笑顔を提供しておく事にする。それも、絶望の生活さなかの貼り付けた様な笑いなどではなく、やっと出せる様になった心からの笑顔を。


 程なく私は友人達に連れられ、海賊船……その名をロストシップ 〈ヘパイストス〉と称される艦の艦橋へ向けて歩き出す。その間に簡単な説明とし、連合から目を逸らすためアグニアスの偽名コード用いるこの船は、古代超技術が生んだ遺産であのスカル・ディセクトと共に連合の施設から奪還されたもの聞き及んだ。


 やがて頻繁な階段による上下移動を終え、眼前へブリッジの扉が見えて来る。そこから私はこの海賊船の乗組員達と共に、火星宙域を駆けるのだとの思い馳せ――


 ブリッジの脇から入る通路を経て、海賊船のかしらであるヴァロック船長の前に到着した。


「これは、星王国が誇る王女殿下。よくぞ……よくぞ無事であらせられた。我がヴァロック海賊団は歓迎するぜ? なんせこの海賊船に乗るのはみな、。」



 そこより語られるは、私が知る王国の……私も知らない壮絶な悲劇の顛末だったんだ。



  ∞∞∞



 アレッサ連合と言う脅威を乗り越えた生き残り姫フレノイアは、禁忌の魔爪スカル・ディセクトと親愛なる従者との邂逅を経て、海賊旗掲げた一団との合流に成功する。そこで彼らをまとめ上げる者である頭目、実質海賊の頭目にして旗艦長である男、ヴァロック・ハーン・グラシールとの対面へと流れを進めた。そして――


 その粋な賊の長より語られるは、自身が聞き及ぶ以上に凄惨な王国の末路であった。


「何から話すべきか……。流石に生き残った王女殿下の面前となりゃ、はばられる事も多いんだが。敢えてそこは、心を鬼にして話させてもらうぜ?」


「はい、構いません。私がここにいるのは、その現実を余すことなく受け止めるため。すでにその覚悟はできています。」


「いい気概じゃねぇか、気に入った。今日まで生き残っただけはあらぁ。じゃあまず、知るべき最優先事項として――」


 さしもの粋な賊長ヴァロックも、滅亡の憂いを被った王女へ突き付ける現実を知るゆえ、海賊帽越しに視線を落とす。が、それでも躊躇なく真実を知りたいと言葉にした、亡き国家の希望を目の当たりにするや覚悟を決めた。一言発し、落としていた視線を双子へと飛ばすと、元気有り余る可憐な双子も駆け寄った。


「王女殿下も、アレッサ連合国に与するヤロウ共が、マルス星王国を滅亡させるに当たり、相当の軍事力を用いたのは知ってんな。それはあの、火星遺跡で発掘された古代超技術の齎した恩恵。それらを我が物顔で使う奴らが、王国に属するあらゆる小国家に部族を滅した。」

「まあ逆らう奴を徹底的に潰し、従う奴は理不尽な従属を求めたってトコだが……王族は問答無用だっただろう。そして、その王国襲撃武力の尖兵として仕立てられたのが、洗脳突撃強化兵団ヒュプノ・マシナリー・プラトゥーンズ。通称H・Pハルパーとか呼ばれる、。」


 次いで語られる事実で、生き残り姫は愕然とし双眸を見開いた。粋な賊長が双子の頭を撫で上げながら、憂いを見せた現実で全て理解してしまう。つまりは、そう言う事であると。


 あまりにも非道極まる事実を耳にし、改めてそれを脳裏へ思い起こした一同が揃って無念を浮かべた面持ちとなる。まさしく粋な賊長の口にした通り、そこに集まる海賊を名乗る者達は、その悲劇に何かしらの形で巻き込まれた集団であるのだ。


 重苦しい空気が、火の海賊船ヘパイストス艦橋を包んで行く。しかしその空気の中も、粋な賊長は言葉を進める。眼前で砕けんばかりに歯噛みする、覚悟を見せた星王国王族たった一人の希望に応える事こそ、彼の役目と言わんばかりに。


「ハルパーは文字通り、大鎌で刈る如く逆らう奴らを皆殺しにする戦闘集団。だがその機関もいろいろ問題が山積みだった事から、星王国を滅ぼすか否かで見捨てられてな。そこで幸いにも発見した旧研究機関を、アンタレス・ニードル残党と、依頼で動く傭兵集団協力の本に壊滅の運びとなり――」

「洗脳突撃兵へ仕立てられる寸前だった、この二人含めた十数名を組織の関係各所で保護する事になった。だから暴れる様な時は俺達が……いでぇっ!?」


「ハルーはにゅ! 坊主呼びには断固拒否を進言するにゅ!」


「パルーも右に同じにょ! せんちょーが分かってないにょ!」


「あーお二人さん、いきなりシリアスブレイクは淑女にあるまじき行為さね。慎もうか。」


「「にゃ〜〜!」」


 重苦しい空気。それをまさかの、悲劇と共に紹介された双子によって壊されてしまう。さらには彼女らの口にした言葉で、現実に引き戻された生き残り王女がキョトンと呆けてしまった。


「あ、ふーたんこの二人を女の子と思ったのじゃ? 残念、こんなに素敵カワイイ美少女に見えても、この子達は男の娘なのじゃ。」


「いや、まあいいんじゃね? カワイイには違いないんだし。ただ船長も、このカワイサは反則だと思うんだわ。」


 そんな彼女を見やり、予想の範疇であった反応へ友人それぞれが返す。そして彼女達は、その直後に訪れる生き残り姫の身体状況も想定して動いていた。


「男の娘、なのか。ちょっと可愛すぎてビックリ――はれっ?」


「おっと……ふーたんお疲れだね。よくここまで持たせたよ。さ、ユリンもペクリカもふーたんを部屋に案内しよ? もうこの子いっぱいいっぱいだから。」


「だな。ホントよく頑張ったんだわ。」


「なのじゃ! 今はゆっくり休むのじゃ!」


 シリアスブレイクが良くも悪くもキッカケとなり、緊張の糸がプツリと切れた生き残り王女。そんな、今までの疲労が一気に襲った姫を支えるは白銀騎士ノルンだ。労りを向けつつ、そこまで持ち堪えていた王女な友人へ称賛を贈るや、体を支えて用意済みの部屋へと案内する。


 その騎士を追う様にきびすを返した友人達。ふと、それを見据えながら粋な賊長が声をかけた。


「よう、ユリン! 気高いお人じゃねぇか、フレア姫様はよ! ……守ってやらねぇとな。」


「何言ってんだ、このクソオヤジ。そんなの当たり前……あれがこのユリンの友人なんだわ。あと、任せた。」


 振り向く跳ねっ返りも、不器用に父への感謝を述べると艦橋を後にする。そこから――



 生き残り姫の、本当の意味での長い戦いが幕を開ける事となる。

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