〜星の荒波越える宇宙海賊〜
火星圏宙域はアレッサ連合政府の台頭をキッカケとし、今まさに戦乱の火蓋が切って落とされたといっても過言ではなかった。
連合政府に加担する小国各軍が続々と、機動兵装にそれを艦載する機動艦隊を展開。対するはかつてマルス星王国に同盟し、それを支え続けた小部族に弱小国家の所属組織群。だが、火星圏の規模は地球から比べるまでもなく小さく、人口の大半が火星衛星軌道ソシャールでの生活を余儀なくされる文化形態。故に大小部族や組織がいくら徒党を組んだとて、武力と数に勝る連合政府の暴挙を止める事は容易ではない。
故に反抗勢力のほとんどが、尽く無力化される現実がそこにあった。
そんな勢力圏で、どの国家にも属さない一定数の組織が暴れまわる事で知られていた。それは独立した少数派勢力で、主に金で割り切って動く私設の傭兵部隊を擁する派閥が多数入り乱れる。そこへある一勢力、義賊を
「アグニアス、機関出力良好なの! 軍部の勢力を出し抜いたの! ハル……敵さんは?」
「ハル了解にゅ! 敵さんはすでに小惑星の影の彼方……モニターから消し去ったにゅ!」
『やめろハルパル、レーダーはウチの仕事。勝手に取んなし。』
「おーい(汗)、各自の任務をちゃんと遂行してくれぃ。双子もヒッキーも、これじゃいつまでたってもお前らに船を任せられねぇぜ?」
『ヒッキー言うなし。』
「「双子でまとめんにゃ!」」
今しがた浮遊岩礁帯を抜けた一団が、直前の勇猛が嘘のようなお遊戯レベルの通信ではしゃぎ合う。対し、それをまとめているであろう低音かつダンディズム溢れる男の声は嘆息に濡れていた。
ダンディズム溢れる男が艦橋に位置するそこへ陣取る艦は、火星のどの軍部が所有する艦船にも該当しない、それでいて古びた偽装が目に付く双発エンジン構えた中規模の宇宙戦闘艦。だがしかし、機動兵装さえも搭載可能としつつ、正規軍の艦隊を振り切る機動性能は、そこへ何かしらの超技術が関わるのではと思わせる。
ほどなく軍部勢力を振り切ったそれ……アグニアスと呼称した戦闘艦は、追従する艦載機動兵装を帰還すさせるべく船体一部のハッチを開放した。
「はいはい、ハルもパルも行った行った。あんた達の仕事は艦橋じゃないでしょ。まだ専用機がないとはいえ、二人はパイロット。
「おうよ。なんならついでにその、ハルパル娘をトレーニングルームへ詰め込んでおいてくれ。」
「「詰め込むは人権侵害! 訴えを起こすにょ!」」
「あーそもそも、お二人に原因があるんだぜ?マドモアゼル方。さあ、美味しいフルーツパフェを準備してるから、大人しく――」
「「パフェたべりゅーー!」」
「頭いてぇなおい……。」
色とりどりの人員集めたそれは海賊団。火星の古き言葉で死神を意味する名を冠した、義賊を名乗る一団は星の海を波乗る様に気炎を纏う。
――ヴァロック海賊団――
彼らは義賊を掲げ、星の海原を行く。今日も宙域のどこかで、独占的な連合政府の圧政に苦しむ弱者を救うために。そして今彼らは一つの勢力よりの依頼の元、ある存在を迎えるため艦を飛ばしていた。かつて火星圏で一大勢力を誇り、由緒正しき種の文化と反映のため尽力しながら、悪意ある逆賊共に反旗を翻された悲しき王国――
マルス星王国の数少ない生き残りである、たった一人の王女殿下を迎えるために。
∞∞∞
地球世界で言う所の秋の季節。あの蒼き大地に対して、自転と公転の関係で季節が二度巡るこの大地は、本来そういった四季を持たない大地。けど、マルス星王国ではその蒼き大地でも日本と呼ばれる東洋の先進国の影響を色濃く受け継いだ社会だった。
それもそのはず、かのムーラ・カナ星王国も同じく古代種の末裔が住まう彼の地を、畏敬の念を以ってリスペクトしていたのだから。時代が幾分ずれようと、かの超文明と人類の高次元性を有した古代種は、私達にとっての憧れであり目標のはずだったんだ。
「……ふぁ、ぁ……。あ、おはようユリン。今日もあなたのキッツイお化粧を目撃して、おネム思考からの目覚めもバッチリだよ。」
「あぁ!? 朝っぱらから、ぶち壊されたいのかあんたは! てか、もう登校時間。けどいつも言ってる通り。気は抜けないよ? さっさと支度する。」
「うん、もう私達のママだねユリン。」
「うっさいわ。そこでBBAとか言ったらしばき回すから。」
そんな思考で
彼女の配慮をありがたく受け入れる日々。素敵な友人に叩き起こされる今へ感謝しながら寮の窓の外、半ドーム型シェルター内に舞う申し訳程度の紅葉へ視界を移し、その先にあったはずの亡き星王国を憂いていた。
「どうかしたかい?フレア。」
「ううん、何でもない。さ、学園へ行く準備しよ。」
「あいよ。」
その時はまだ、自分へと降り掛かる過酷な運命の足音には気づいてさえいなかったんだ。
いつもの学園登校風景。けれど連合政府の魔手を警戒する私達は、学園を包む半ドームシェルターのさらに下層……申し訳程度に街並みを着飾る秘匿通路を歩く。寮まで直通であるそこは、いざとなれば本格的な逃走経路として機能する場所。
そのいざがいつ襲うか。それこそが私達にとっての警戒要因に他ならなかった。
「おはよ〜。」
「おはよ〜ちゃん。」
一人、また一人と複数の寮から合流した生徒が通路へ姿を現し、当然の如く私の友人もそこへ混ざり混んで来ます。
「おはじゃぁ、おはじゃぁ、おはなのじゃぁ〜! って、ユリン眠そうじゃの。」
「ふーたん、あたしが起こすまで寝てたんだわ。全く……自分の身が一番危ういってのに。」
「ごめんて、ユリン。さあ行こ? 遅れちゃう。」
馴染む風景。私を弄りながらも案じてくれる友人。それを視界に入れるだけで、心が落ち着くのを感じる。脳裏へと刻まれたあの悲劇を、記憶の奥底へとしまう様に。その幸せがいつまでも続きます様に……と。
笑い合う私達は、ふといつもと違う状況へ首をかしげて言葉を交わし――
「あれ? ノルンのやつ、今日は休み? むしろ規律正しい元騎士家の令嬢が、遅刻なんてありえないんだけど――」
僅かな違和感。それが皆の脳裏へ不穏な気配を呼び起こした時。支給されている学園専用の特殊携帯端末が、アラートと共に爆音を発したのです。
「ちょっ……こいつめちゃうるさいんだが!? こんなガチ音量で鳴るとか聞いてないんだわ!」
「待って……これ、ノルンからのメール! えっ……?」
一斉に鳴り響いたそれは、生徒の持つ全ての端末から咆哮を上げていた。非常事態が頭を過り、すぐさま端末メール越しに、騎士家ご令嬢との回線を繋いだ。
「ノルンから緊急って……リアルタイムで繋げって来てる!? ノルン……どうしたの、ノルン!?」
メールの文面からしても、ただ事ではない緊急のもの。しかもリアルタイム動画へ繋げと言う暗号が交じっていた。その暗号からの動画へ繋ぐと言う指示は、有事の際に連合に悟られないための秘匿回線を開くといった意味。
そしてそれが繋がる先は……フレーベル学園とは別の場所にある、反政府 レジスタンス〈アンタレス・ニードル〉のアジト、地上支部だった。
『良かった、繋がった! フレア、よく聞いて……そこにユリンとペクリカもいるよね! なら二人を連れてすぐに、学園から離れる様に避難経路側へ走って!』
「ノルン、何があったの!? ま、まさか……――」
案の定の場所へ繋がるや、鬼気迫る騎士家友人 ノルンの姿が映り込む。けれど彼女が、学園の制服ではなくパイロットスーツに身を包む事実で全てを悟ってしまったんだ。
『学園が、アレッサ連合の部隊に襲撃された! 狙いは分かってるよね……滅亡した元星王国の生き残りである、フレノイア王女殿下! つまりあなたよ、フレア!!』
「学園、が……襲撃!? そんな……――」
いつまでも続く……そう思い込んでやまなかった現実が、その一言で終わりを告げ、思考が地獄の様な逃避行に再び支配されていくのを感じた。お父様とお母様、そして王国で私を命懸けで逃がしてくれた多くの家臣達が、連合政府の暴虐な砲火で蹂躙される惨状からの逃避行に。
「ぼさっとしない! フレア、来な!!」
「そうじゃ! すぐに逃げるじゃ!!」
呆然と端末携帯を見るしかない私。そんな私の手を引いたのは、豹変した雰囲気で言葉をかける友人達。そこからが、私の描く復讐劇の始まりになるとは――
自身も想像だにしていなかったのです。
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