第4話 Gランク依頼が意外な方向に

 翌朝、雑貨屋にて薬草を入れるための背負いカゴを1200ギルで購入してから僕たちは街をでた。


「ご主人様。すでに報酬ほうしゅう金額を超える出費でチュウ~」

「この依頼の報酬相場は20000~30000ギルだったわよ。私が最初に割が合わないといった訳がこれでわかっただろう」

「ふたりともそんなに心配しなくて大丈夫だよっ。依頼よりも薬草をいっぱい取って余ったぶんをどこかの店に買い取ってもらえばいいと思う」

「良いアイデアでチュウ~」

「う~ん。そんなにうまくいくかしら?」

「物知りのエルさんがいるんだからきっと大丈夫だよ~」

「そ、それもそうね~」


 エルさんは両手を上げたあと、頭のうしろで手を組み笑って応えてくれた。



◇◇◇



 街をでてから30分ほど歩き森の中を探索たんさくする。今回は、あらかじめ街で薬草の匂いを覚えてもらったムスターの鼻が頼りとなる。 


「クンクン。あっちから薬草の強烈な匂いがするでチュウ~」

「すごいぞムスター」

「ドラゴンって意外と鼻が利くのねっ」


 僕は走ってムスターのあとを追った。

 腐葉土ふようど堆積たいせきしたふかふかの地面が心地よい。


「ガルル! (なんだ昨日の小僧ではないか)」

「あ~!」


 運悪く、昨日襲ってきたレッドグリズリーと再会してしまった。


「昨日はよくもやってくれたでチュウ~」

「ガルル! (だれだお前?)」

「忘れたとはいわせない、ボクは昨日襲われたハムスターだチュウ~」

「ガルル! (お前っドラゴンだろ)」

「私も昨日とは、ひと味違うわよっ」

「ガルル! (仮面の模様が昨日とは違うがエルフのほうは覚えているぞ)」


 エルさんが後方から飛ぶように慌ててやってきた。


「ガルル! (飛んで火にいる夏の虫。今日の俺様は機嫌が悪いぞ)」


 どうしてレッドグリズリーが僕の元いた世界の言葉を知っているんだろう?


「エルさん! 相手は機嫌が悪いって」

「上等よっ」

「ムスターもがんばって!」

「了解でチュウ~」


 襲いかかってくるレッドグリズリーをエルさんは、宙を舞うちょうのように流動的な動きで翻弄ほんろうし、カウンターで両手の鋭い爪をスパッと切り落とした。

 ムスターは、その間に特殊能力『肉体改造』を使って自身の体を大きくしていた。エルさんの攻撃のすぐ後に、ムスターは体を反転させると尻尾しっぽむちのようにしならせて攻撃。相手を5メートル以上突き飛ばした。


「ガルル! (この俺様がこんなにもあっさり……)」


 ふらつきながもなんとか立ち上がるレッドグリズリー。


「ガルル! (今日はどうも調子が悪いようだ)」


 そういって、森の中奥深くへ逃げていった。


「すごい。ふたりとも、めちゃくちゃ強くなってる~」


 ピロロン! レベルが上がりました。レベルが上がりました。レベルが上がりました。なにもしていないのに僕のレベルは4にまで上がった。パーティー登録の恩恵おんけいだろう。


「こんなに強くなってびっくりでチュウ~」

「体が軽いし、相手の動きが止まって見えるのよね~」


 ふたりとも自身の強さにいしれているようだった。僕は足元に偶然生えていた薬草を見つけるとおもむろに手を伸ばし、それを根元から引き抜いた。


 手にした薬草が煙に包まれた。(えっ、これってもしかして……)

 煙が消えると手には――にじ色の葉を持つ薬草がにぎられていた。


「それって入手困難な超高級薬草よっ。なんでも、普通の薬草の100倍の回復力があるって聞いたことがある」


 特殊能力『いきものがかり』は、植物の能力までアップさせられるようだ。無意識とはいえ特殊能力を使ったので僕のレベルは1になっていた。ガーン。


「育、がんばって~。私も手伝いたいのだけれど、それだと普通の薬草のままだから~。あ~残念!」

「ご主人様、あっちにもっと薬草が群生してるでチュウ~」


 ムスターが指さす方向には、辺り一面薬草が――さすがに全部を取り尽くすのは無理そうな量だ。


 それから1時間、無心になって薬草を取りまくった。特殊能力を使い続けたためか疲労感もすごかったが、背負いカゴがいっぱいになるだけの薬草を採取することができた。



◇◇◇



 街に戻った僕たちは真っ先にギルドにむかう。

 ギルドの建屋に中に入ると、ゾックが僕たちに気づいてやってきた。


「どうやら依頼は達成できたようだな。手続きをするからオレのあとについてこい!」


 そういって、ゾックはギルドをでた。

 僕たちもそのあとをついていく。


 人気ひとけのまったくない路地裏――いつの間にか僕たちは10人以上のガラの悪い人たちに囲まれていた。


「それを置いたらこの街からとっととでていくことだな。命だけは助けてやる」

「最初から私たちをだますつもりだったのね」


 エルさんは僕の前に立つとゾックをにらみつけた。


「それは違うぜ。俺だって最初は1000ギル払って冒険者登録証を渡すつもりだったんだぜっ。まぁ、偽物だけどな」


 それも騙しているのと変わらないのでは……。


「それがだ。お前らときたらカゴいっぱいの超高級薬草を持って現われやがったんだぞ。となれば盗賊の立場上、奪うってのが筋だろっ」

「まるで自分たちは悪くないとでもいいたげな理屈ね。本当あきれる」

「いってくれるね~」


 ゾックが手を上げ合図を送る。

 仲間たちが隠し持っていた武器を取りだしニタつく。


「エルフの女は俺たちと一戦交えてもかまわないように見えるから先にいっておく。この場所は魔法を無効化する魔法陣が描かれてるんだぜ。魔法が使えないエルフなんざ、最初からオレたちの敵じゃないんだよっ!」

「フフッ。そんなの最初から気づいていたわよ」

「強がるな女! みんな、やっちまえ~」


 10人以上であらゆる方向から同時に攻撃をしかけてきた――それなのに数秒後――、盗賊たちは全員、地面にしていた。


「な、なんなんだこの女! 強すぎるっ」


 エルさんが長剣をさやに納める。


「ムスターさん。ここで大きくなれるかしら?」

「問題なしでチュウ~」


 エルさんの指示でムスターが巨大化する。

 しばらくして僕たちは街の警備隊に取り囲まれることとなった。

 警戒けいかいする警備隊に、ムスターが仲間であることと、ゾックたちに騙され襲われたことを説明した。僕の話を聞いてくれた警備隊は、即座にゾックたちを捕らえ拘束してくれた。


 ――この日、ゾック盗賊団は消滅したのだった――。

 


◇◇◇



 警備隊長による事情聴衆が終わると、今度はギルド長室へと連れていかれた。


「いや~。俺の留守中に、ギルドメンバーがお前さんたちに迷惑かけちまって悪かったな~」


 声も体も態度も大きい人だった。スキンヘッドに筋肉ムキムキの中年男性で、ギルドマスターのルド・モーニングと紹介された。


「僕たちは冒険者登録がしたかっただけで……」

「冒険者登録をする者なんざ、ここ十数年だれもおらんかったから受付の者も気づけんかったんだ~。すまん、すまん」

「これからはちゃんとやってくださいよっ」


 僕がなにもいわなかったので、代わりにエルさんが釘を刺す。


「おうよ。でもまぁなんだ、あいつらは俺も好かんかったからスカッとしたわ~。ガッハッハ~」


 器の大きな人のようだ。

 エルさんに動じることもなく、最終的には僕たち全員の肩を組んで豪快に笑って見せた。別の意味ですごい。

 

 そしてこのあと、僕たちはぶじ冒険者登録を済ませることができたのだった。それに最高ランクであるSランク冒険者の称号が与えられた。


「僕たちがSランク?」

「おうよ。聞いた話だど、ゾック盗賊団を瞬殺したそうじゃないか。それに超高級の薬草まで手に入れてきたんだ。例外中の例外だが、この俺が全責任をとる。だから問題はないってこと!」

「すごいでチュウ~」


ムスターも喜んでいる。


「そこでた。あの薬草はうちのギルドが全部買い取りたいんだが、それでかまわんか?」

「エルさんはどう思う?」

「育がとったんだから育が決めていいわよ」

「チュウ~」

「それじゃあ、買い取りでお願いします!」


 僕は背負いカゴと一緒に薬草をルドさんに渡し、報酬を受け取った。


「取引完了ついでに、ひとつ俺から依頼がしたい」

「これもなにかのえんだと思うから、なんでもいって」

「気持ちの良い回答だな~」

「ちょっと育、もう少し慎重に……」

「まあ、話だけでも聞いてくれ。ここより南に進むと切り立った山々が連なるミスリル山脈がある。そこに住むふたつのドワーフ族が新しく発見した鉱脈の採掘権利をめぐってめにめてるんだとよ。ドワーフ族の長は俺の旧友でこの問題を早急に解決してほしいんだそうだ。忙しい俺に代わって、ふたつの部族の仲裁を頼めないか?」


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