第3話 仮面を被ったエルフは恥ずかしがり屋?

 僕のレベルが999から1になった答えはステータスの中にあった。ちなみにそれを教えてくれたのはエルさんだ。

 ステータスの表示方法は2種類あって、一定時間ごとに表示される時間表示と、登録ワードによって表示させる意思表示があるそうだ。


「それじゃあ、私のいった通りにステータスを登録ワードに設定してっ」

「ス、ステータス!」

「ステータチュウ~!」


 目の前にステータス表示が浮かび上がった。個人情報保護の観点からになっている。


「表示されたステータスは、指先でフリックすると具体的な項目に進んだり、戻ったりできるわよ」


 本当だ。これはスマホの操作感覚に近い。

 僕は『特殊能力』に指をあてた。


 ――特殊能力『いきものががり』。しろかみさまの付与能力。に直接触れることで、その潜在能力を最大限まで解放することができる。ただし、この能力を使用した際は、本人のレベルが1になる――。


 なるほど、なるほど……ってもう遅いよっ!

 ……でも、ちゃんとした理由がわかった。結果的に僕は弱くなっちゃったけど、その代わりにムスターが強くなれた。それに言葉も話せるようになったんだからこれでよかったのかもしれない。


 ちなみに、ムスターにも特殊能力があった。そこには『肉体改造』と表記されていて、自身の体の大きさを自由に変えられるそうだ。試してもらったら12メートルくらいまで大きくなることができた。ただし、大きくなるほど体力を使うらしく、ムスターはすぐに10センチ程度の大きさに戻ってしまった。


「ねえ。育たちはこれからどうするの?」

「僕がこの世界にきた目的は、魔王を元の世界に連れ戻すことなんだ。だから、魔王に直接会わないと……」

「育は魔王と知り合いなの?」

「うん。元いた世界で、僕の担任の先生だった」

「担任?」


 エルさんは仮面に人差し指をあて、首をかしげる。


「物事を教えてくれる師匠のような人だチュウ~」


 エルさんの態度を見て、ムスターが補足説明をしてくれた。ひょっとして僕より賢いのか?


「育の性格を見たかぎり魔王も決して悪い人ではなさそうね。だとしたら…… 」


 エルさんは仮面のあごの部分をなでながら小さな声でつぶやいた。


「いろいろと教えてくれてありがとう。この世界で最初に会ったのがエルさんで本当によかった」

「ボクも熊に襲われていたのを助けてもらったでチュウ~。ありがとでチュウ~」


 僕とムスターはエルさんに別れを告げた。


「ちょ、ちょっと待って! 育たちはこの世界についてなにも知らないし、魔王の居場所もわからないのでしょう!」


 エルさんが僕たちの正面に立ち、両手を広げ動きを制する。


「不安はあるけど、これ以上はエルさんに迷惑をかけことになるから……」

「ねぇ、だったらこうしない? 育は私に能力解放をする。私はそのお礼として育たちを魔王のところまで案内する。どうかしら?」

「大歓迎だチュウ~」

「僕も~」


 ムスターが翼をばたつかせて喜び、僕はねて喜んだ。

 その間、エルさんはステータスをなにやら操作していた。


「パーティー申請をしたから確認してっ」

「ステータス!」


 ステータスを開くと、パーティー登録をしますか? 『はい』『いいえ』の選択肢が表示され――僕は『はい』のほうに指をあてた。


「これからよろしくねっ!」

「こちらこそっ!」


 エルさんと握手を交わす――再び煙が現れ――エルさんが煙に包まれた。


「すごい。力がみなぎってくるのを感じるわ」


 ぶじ能力解放がされたようだ。


「エルさん、仮面にギザギザの縦線が入ってかっこよくなった~」

「えっ、そうなの? かっこいいの?」


 両手で仮面を触って確認している? 表情は仮面でわからないけれど、なんだか照れているようにも見えた。

 

 ――このあと、ムスターともパーティー登録を済ませ、僕たちは近くにあるという街を目指したのだった――。



◇◇◇



 ――2時間ほど歩くと、目的の街にたどりつくことができた――。


 僕たちが街の中に入るには、ひとり50ギル支払う必要があった。(ひとまずエルさんに立て替えてもらった)街の大きさは中規模程度。道には赤いレンガが敷かれ、その両脇に木造建築の店が並んでいた。ちなみに看板の文字は僕もムスターも読めなかったので、エルさんまかせになる。


「魔王の住む魔王城までの道のりは遠いから、まずはギルドで冒険者登録をしておきましょう。冒険者になれば街に入るときの入場料が無料になるから」

「だとすると、エルさんは冒険者じゃないんだね」


 100ギル払って街に入ったからだ。


「ええ。旅はしているけれど、他人の依頼ごとまではちょっとね~」


 そんな会話をしながら歩いていると、すれ違う人々が皆こちらを振り返る。


「やたらと視線を感じるのだけれど……」

「その仮面がいけないと思うでチュウ~。とったほうがいいでチュウ~」

「嫌……それは恥ずかしい……」


 獣と戦っているときはりんとしていたエルさんの意外な一面を見ることができた。実は恥ずかしがり屋さんなのかもしれない。

 

「ここが冒険者ギルドよ」


 エルさんが指差した建物は、僕の想像を下回るボロボロの建物だった。


「本当にここなの?」

「看板にそう書いてあるから間違いようがないわ」


 その看板が外れかけている。

 僕は不安を抱きつつも覚悟を決め中へ入った。


「見ない顔だな~」


 建物の中に入ってすぐに、黒のフードを被った盗賊っぽい格好の人に声をかけられた。


「僕たち冒険者登録にきたんだっ」

「おい。ガキは登録できないぜ!」


 本当? ……いきなり終わってしまった。


「ならば、私だけでも登録しておこう!」

「エルフとはこれまた珍しい。ただ、その仮面! 効果までは知らないが、それって呪いの仮面だろっ」

「チッ! 余計なことを……」

「素顔が明かせないなら登録は無理だぜ!」

「チュウ~」

「なんだお前? ずいぶんと小さなドラゴンだな。獣は論外だ!」


 困ったぞ。

 だれひとり冒険者登録できない事態となってしまった。それに、エルさんの仮面のことも気になる……呪いっていってたけど……。


「まぁ、そんなにしょんぼりするな。もしこの依頼が達成できたら特別に冒険者登録してやってもいいぜ!」


 男はいちど辺りを見回してから、僕たちだけに聞こえるような小さな声でささやく。そして、依頼の書かれた紙がテーブルの上に置かれた。


「Gランク依頼。薬草20キログラムの採取。報酬ほうしゅう1000ギル」


 僕はこの世界の文字が読めないから、エルさんが代わりに読んでくれた。


「報酬が安すぎて割に合わないわよ、育」 

「エルさん、それは難しい依頼なの?」

「難易度的にはGランク依頼だから難しくはないけれど……」

「だったら受けようよ! 他に冒険者登録する方法もない訳だし」

「チュウ~!」

「わかった。その依頼私たちが受けるわ」

「まいどあり~。オレの名はゾック。明日までには頼むぜ~」



◇◇◇



 ギルドをでた僕たちは、宿屋で部屋を借りると、そこの食堂で夕食をいただく運びとなった。


「この肉とても美味しいでチュウ~」

「でしょう。大型のネズミの肉なのよ」

「いくらでもいけるでチュウ~」


 ん? ムスターが食べると共食いになるような……ただ、この事実はせておこう。


「ところでエルさん。さっきの呪いの話って本当?」

「ああ。別に隠すことでもなかったが、育たちを怖がらせると思って伏せていた」

「ひょっとして、エルさんの旅の目的って……」

「まぁ少し話が長くなるから、その辺は食べながら話そう」


 そういって、料理を追加注文したのだった。


 エルさんの話を簡単にまとめると、生まれ故郷で魔法の才能に長けていた彼女は、いつしか多くの者から嫉妬しっとを買い、数年前、自宅で寝ている間にだれかに呪いの仮面を被せられ、それ以来魔法が使えなくなった。故郷では犯人探しなど無粋ぶすいだとさとされ、疑心暗鬼ぎしんあんきになった彼女は故郷を捨て呪いの解除方法を求め旅を続けているそうだ。

 

「辛気臭い話になってしまったな」

「エルさんかわいそう」

「そうでもないさ。育にも会えたことだし、能力解放のおかげでレベルは999になったからな」

「ボクもいるでチュウ~」

「そうだった! そうだった!」


 エルさんはムスターの頭をなんどもでた。


 食事が終わると、それぞれの部屋に戻り、僕はベッドで、ムスターは床で丸くなってそのまま深い眠りについた。


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