第5章 -2-

ふりだしに戻された感じだった...。

方々手を尽くしたが手掛かりは無く、一縷の望みも立ち消えてしまった。


やれる事はやり切っただろうか・・


自室の床に横になり、しばし、頭の中を空っぽにしていた。


ふと、ゴミ箱の横に落ちているメモ書きを見つけた。


あー・・あの呪文パスワードだ。

メモ用紙に書き写しながら暗記していたから・・。


(我はー未知なる虚空を渡り歩く旅人なりー・・)


呪文パスワードを途中まで唱えた瞬間、頭の中に火花が散った気がした。


何故今まで忘れていたのだろうか。


reVive内にあって特別な場所はセントラルタワーなんかじゃない。

とびっきり特別な場所。『Hub Room』があったじゃないか!


あそこに行けば何かしらの進展があるはず。

そう確信して、皆に連絡を入れた。



───空蝉町の公園。



「・・というワケで、絶対に何かあると思うんだ。」

「確かにな。世界サーバーはここの他にもあるんだし。」

「全員で行けるでござるか?」

「わからないけど、、手を繋いで呪文パスワードを唱えるか、各自で唱えるか・・」

「とりあえずー、手、繋いでみよ?」

そう言って茜は両手を差し出した。


手への感触のフィードバックは無いが、皆で輪になって手を繋いだ。


「そんじゃ唱えてみようか・・」

出来れば、皆で一緒に唱えたかった。

俺だけ唱えるには、ちょっと照れがある・・が、ここは1発キメるところだろうか!?


「我々は!未知なる虚空を渡り歩く旅人なり!数多の世界を結びし聖域への扉を開かん!!」

(ぁ、なんか、皆一緒だから「我々は」って言っちゃった? パスワードが違いますかな?)

やらかしたーと思った次の瞬間、全員、虹色の光に包まれた。

1文字違っててもいいんだ...。

そこは窓も扉も無い白い部屋で、一方の壁際に5枚のパネルが浮かんでいた。

全員『Hub Room』に転送された。


「ぉぉー・・ここが『Hub Room』でござるかー・・」

「何もねーんだな。」

『あのパネルに映っているのは、他のサーバーですね。』

「真っ白だねぇ・・・」

『他のサーバー以外に、もっと特別な領域へ行けたりしないのだろうか。』


皆で部屋を見渡してみたが、何も無い。


『ここの壁だけ「白」が荒いようです。』

Yuiが壁の1ヵ所にある異変に気付いた。


「そうなのか?俺には違いなんてわからな・・」

宏が壁を触ろうとしたが、そのまますり抜けて壁の向うへ消えていった。

(ぉぉーー・・)

壁の向うから宏の声がする。


「! 宏!?」

慌てて後を追ってみると、そこの壁には『当たり判定』が無かった。

いわゆる『シークレットドア』だろうか。


壁の先は薄暗い通路になっていて、その先に光が見えた。

俺たちは慎重に警戒しながら通路を進んだ。

通路を抜けた先は、見渡す限りの草原だった。

柔らかそうな風が吹き抜け、草が優しく揺れている。

どこまでも広がる青い空には、ちょうど良いくらいの白い雲が流れていく。


思わず深呼吸してみた。

この風や匂いを感じる事が出来たなら、さぞかし心地よい場所だろう。


「わぁーーー素敵な場所ねーーー・・」

『ここは・・一体何処なんだ・・・』


「あそこ! 家が建ってるよな?」


小高い丘の上に、白い壁に赤い屋根の家が見えた。


「行ってみよう!」


茜と麻衣が嬉しそうに走り出す。

それを追いかけてYuiも走っていった。


宏が『俺らも走っちゃう?』的な笑みを向けてくる。

俺は一瞬顔を逸らして『そんな気は無い』アピール・・と見せかけてからスタートダッシュを決めた。

「あ!ずりぃーよ!待ちやがれ~!」

「あははははは!」


すぐに茜たちに追い付いて一緒にわーきゃー叫びながら走った。

こういう時のテンションって、何なのだろう・・。


慎太郎とNobuは走ったりするのが苦手そうだった。

この空間に対しての驚きから未だ覚めきれないでいるKen先生と一緒に歩いて丘の上を目指していた。

そこには、広めの庭がある一軒家が建っていた。

庭には大きな木があり、枝から吊られたブランコが揺れている。

人は住んでいるのだろうか・・・


入口のドアに手を掛けようとした瞬間、音もなくドアが開いた。

気付くと足元に、4才くらいの女の子が立っていた。

『ぉー・・パパさま!パパさま!おきゃくさまですぅー』

女の子が家の奥へ走り去っていくのと入れ替わりに、中年の男性が現れた。


『やぁ、待っていたよ。』


以前、動画で見たことがある顔・・二階堂さんだ。

reViveの開発主任で、すでに亡くなってミイラ化していたという・・あの二階堂さんだ。


幽霊? いや、AIDなのか?


「二階堂さん・・ですよね?」


『いかにも。とりあえず、場所を代えようか。』


そう言って彼はこめかみ辺りに指を添えた。

すると周囲の景色が一変して、会議室のような場所に転移していた。


『適当に掛けてくれたまえ。』


長いテーブルの左右に椅子がずらりと並んでいる。

俺たちは二階堂さんに近い場所から詰めて椅子に座った。


いや、Ken先生だけ椅子には座らず、二階堂さんの方へ歩み寄っていった。

『・・主任』

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