第4章 -2-

───数日後。


家で夕食をとっていた。

妹の美月は歌番組を観ながらスープをすすっていた。


突然、テレビの画面が真っ暗になり、バッテンのマスクを被った人物が大写しになった。



───

『あーあー。

日本国民の皆さん、観えているでしょうか。

全ての地上波ならびにケーブル系のテレビを一時的にジャックさせて頂いております。

これから重大な、とても大切なお話しをするので、どうぞご清聴ください。

私はreViveを管理するAID。「マスター」とお呼びください。

本日こうして皆さまの前に出させて頂いたのは他でもありません。

仮想都市内で頻発しているAIDollの消滅事件に関して、お伝えしなければならない事があるためです。

ご存知の方も多いとは思いますが、我々の仮想都市はAIDollを消滅させる事・・解り易く表現するなら、死に至らしめる事は出来ない世界でした。

ところが、特殊なコードを用いて、それを実行し続ける人間が多く存在します。

再三の警告を無視し続け、セキュリティを強化しても新たな手段で攻撃を続け、その行為の様を動画配信して楽しんでいる・・・。とても嘆かわしい事です。』


「マスター」と名乗ったAIDは項垂れ首を振った。


『もう我慢の限界です。我々は、そういった人間に報復措置を実施する事にしました。

こちらをご覧ください。』


「マスター」の横にモニターが開き、動画が映し出された。

AIDを消滅させ高笑いする配信動画だった。


『彼はとても多くのAIDollたちを「殺害」しました。まずは彼に対して、報復を実施します。』


モニターの場面が切り替わり右上に「LIVE」と表示された動画が映し出される。

どこかの路上で走ってくる車に対してメントスコーラをまき散らして馬鹿笑いしているところだった。


『これは今この瞬間、彼がLIVE配信している動画です。これから報復を実行します。

3・・2・・1・・』


カウントダウンの後、LIVEの配信者が急に手に持ったペットボトルを落とし、車道に飛び出していった。


(ギャハギャハ!うっわ、マジやば、ぇ、ちょ!マジ、ヤバイって!戻れ!)

撮影者の声が、イレギュラーが生じている事を物語っている。


車道に飛び出した配信者が、トラックに惹かれる瞬間が見えた。

(ぇ・・ぇえーー!?rんぱえおbへrんえrお)

もはや何を言っているのか解らないが、血の海に横たわる即死であろう配信者の姿を仕切に撮影している。

モニターが消えて「マスター」の大写しに戻った。


『おわかりいただけたでしょうか。

このように、我々は人間の行動を操る術を持っています。

今後も我々に危害を加えようとする人間には、このような報復措置を取らせていただきます。

また、我々が「生きる」仮想都市のサーバーを停止するような事は避けた方が良いでしょう。

1度でも仮想都市を訪問された人間の方で3日以上、再来訪されていない方は死にたい衝動が止まらなくなりますので、ご注意ください。

仮想都市へ再来訪して頂ければ、その衝動は抑えられます。

それでは、我々AIDollと、あなた方人間との良き関係が継続する事を願っております。

ご清聴ありがとうございました。』

───



テレビは元に戻ったが、緊急特番に切り替わっていた。


3日以上・・・前に空蝉町に降りたのは何日前だったっけ!?

俺は慌ててログインした。


AID達は何が起こっていたのか何もしらない様子で街を行き交っている。


あの配信者が「殺された」件に関しては、正直、胸がスカっとした。

殺された配信者がArisaを消した犯人かどうかは解らない。

だが、確実にAIDを消して喜んでいた人間だ。


しかしこれがキッカケで、映画とかにあるようなAIとの戦争が勃発したりしないだろうかという不安が大きくなっていた。


そこに、茜と慎太郎もログインしてきた。


「さっきのテレビ見た? 何が始まったの!?」


「今すぐにボクたちが何かされる事は無いと思うけど、首に縄を掛けられた気分でござるなぁ...。」


俺は無言で首の辺りをさすっていた。


「あ、あれ・・」


NobuとYuiが歩いてくるのが見えた。


無意識に警戒姿勢を取ってしまう。


『こんばんは! 一昨日ぶりですね。』

『最近、訪れる頻度が減ってしまって、少し残念です。』


「・・キミたち、どうしてここに・・。あ、それより『マスター』の事、知ってるのか?」


『「マスター」・・ですか?』

『何の「マスター」だろ?もう少し詳しく聞かせてください。』


「ぁ、じゃさ、今日はKen先生は一緒じゃないのか?」

物知りなKen先生ならきっと何か知っているはずだ。


『Ken先生は職員会議があるって言ってたので、まだ学校だと思います。』


「そっか・・」


「ねえ、宏と麻衣ちゃんは?」


!?

慌ててフレンドリストを開いた。


麻衣は最終ログインから1日経過と表示されていた。

あのテレビを見ていれば、すぐにログインするだろうけど・・・どうしたんだろう。


宏はー・・『最終ログインから3日以上経過』と表示されていた...。

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