第3章 -3-

───数日後の学食。


「Arisaちゃん、ホントに居なくなっちゃったんだね・・。」


「Ken先生たちにも確認してみたけど、AIDに出来る事は・・・。」


「一樹くん・・」


ここ数日、ほとんど言葉を発していなかった気がする。


「・・・・あの時、Arisa、笑ってたんだ。『またね』って手を振って・・」



───

Arisaの足元に空き缶が転がっているのが見えた。

見えたのとほぼ同時だった。

目の前が一瞬真っ白になったかと思うとプツリと暗転した・・


俺は椅子から飛びあがるように立ち上がり、ゴーグルを剝ぎ取った。


見覚えのある空き缶。最悪な事態が脳裏をよぎる。


「ウソ・・だろ・・・・・・Arisa・・Arisaは!?」


すぐに被り直してログインする。

そこはさっきの広場だった。


「Arisaー!!!!!!!!!!!!!!」


地面には焦げた跡だけが残されていた。

周囲には誰も居ない。


「なんで・・・なんでだよ!!」


Arisaは瞬間移動が使えるんだ。咄嗟にどこかへ飛んだのかもしれない。

きっとそうだ・・。


そうであって欲しいと願いを込めてフレンドリストを開いた。


『Arisa』の文字は暗くなっていて選択する事ができなかった。


またゴーグルを剝ぎ取り、パソコンからアクセスしてみたが、結果は同じ・・『Arisa』の文字は暗いまま、やはり選択する事はできなかった。

───



「すぐに運営にメールしてみた。番号を調べて電話もしてみたけど、特定のAIDに生じた不具合を復旧する事は出来ないの一点張りでさ...。昨日も、開発の部署にも確認とったけど、やっぱり復旧は出来ないってメールの返信があった。」


皆押し黙っていたが、俺を気遣ってくれているのが痛いほど伝わってくる。

俺は無理に明るく努めて場の空気を盛り返そうと思った。


「あー・・でもさ!あれだよ。昔のRPGでもあったじゃん。ヒロインが途中で・・死んじゃ・ってさ・・、復活イベントとか? 期待して進めてみたけど、結局・・最後まで・・そんなイベン・ト・・無くってさ・・・あれ?」



宏が後ろを向いて天井を見上げている。



麻衣はうつむいたまま肩を震わせている。



慎太郎は黒縁メガネを外して服の袖で目を擦っている。



茜は・・俺の肩におでこを乗せて、小声で優しく囁いた。


(無理、しなくていいんだよ)



・・いつから零れていたのだろう。涙が溢れ出て止まらなくなっていた。



・・・・・・・・・



皆に背中をさすってもらったりしながら、ひとしきり声を出して泣いたんだと思う。

心が軽くなった気がする。


「皆、ありがとな。 楽になった、気がする。」


「独りで悩むなよ!辛い事があったなら洗いざらい話して、皆で背負い込みゃいいんだよ!」


「うんうん。話を聞く事しかできないかもしれないけど、落ち込んだ時こそ寄りかかり合える? くらいの仲だって、あたしは思ってるんだからね!」


「皆からも運営に問い合わせ入れてみようか。署名運動じゃないけど、AIDを復活させて!って声が多ければなんとかならないかな?バックアップとか残ってるはずだし・・」


「なんたって、タイトルが『リバイブ』だからなぁ~・・ぁー・・まぁーた自殺のニュースだ。最近多いよなぁー。」


学食に設置されていた大型テレビにニュース番組が映っていた。音声は消してあったが、どこかのマンションで集団自殺があったらしい。


「正直、心配だったんだぜ?一樹も良からぬ事を考えてたりしないかってな。」

宏が疲れたような笑い顔でテレビの画面を指さしている。


「ええ~?ごめんごめん、でも流石にそっち方面は考えもしなかったよ(汗)」

本当に心配かけてしまったようだ。


とても申し訳ないのと同じくらい、とても、とても嬉しかった。




皆と別れて帰路につく───。


1人になると、まだ、ぐるぐると思い悩んでしまう...。


あの時、浮かれてボーっとしていなければ・・もっと周囲に気を配っていたら・・何か打つ手はないのか・・今からでも何か・・。


所詮AI・・ただのプログラムじゃないか・・電源落とせば消える・・データを削除したって消える・・昔あった恋愛ゲームのセーブデータみたいなものじゃないか・・そこまで入れ込むのってキモくないか?


何にしたって、消えちまったもんはしゃーねーよ。嘆いてたって良い事はひとっつもない。次の楽しみ探そうぜ~。


結局、落ち込んでいる自分が好きなだけだろ?

悲劇の主人公を気取って、痛い目にあってる自分、今サイコーってか?


・・まるで多重人格のように、色々な『自分』が語り掛けてくる。

頭の中から『自分かれら』を追い出そうと、何度も頭を振った。



家に帰って、パソコンを立ち上げた。

以前はすぐにゴーグルを被っていたが、今は流石に気が乗らない。


新着メールがあった。

いつものサポートデスクではないが『ValtexNet』からのメールだ。


『あなたが懇意にしてきてくれたAIDを復活させる事は叶いませんが、他のサーバーには同じ個体が現存しております。ただし成長過程が異なるため同一ではありません。その旨、ご了承頂けるようでしたら、あなたのアバターを他サーバーへ転送する事が可能です。』


Arisaに会える、のか!?

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